オシロスコープで複雑な波形を観測していると、
「トリガをかけても波形が安定しない」「周期が崩れて見える」
といった現象に出会うことがあります。
その原因の一つに関係するのが トリガホールドオフ(Trigger Holdoff) です。
ホールドオフは、トリガ信号の再検出を一時的に抑制することで、
複雑な周期波形を安定表示させるための便利な機能です。
本記事では、トリガホールドオフの原理と、実際の測定での使い方を解説します。
■トリガホールドオフとは
トリガホールドオフとは、トリガが発生したあと、
次のトリガを受け付けるまでの待機時間を設定する機能です。
この「待ち時間」を設けることで、周期内に複数のトリガ条件がある信号でも、
常に同じ位相・同じ部分で波形を固定表示できるようになります。
たとえば、1周期内に複数のパルスが含まれる信号では、
ホールドオフを設定しないと、どのパルスでトリガが発生するかが毎回変わり、
波形が画面上で揺れて見えることがあります。
ホールドオフを適切に設定すると、トリガが意図した位置でのみ発生し、安定した観測が可能になります。
■ホールドオフの動作イメージ
オシロスコープは、波形をトリガで検出すると一度データを取得し、
その後、一定の処理時間を経て次のトリガ待ちに入ります。
この「次のトリガ待ちに入るまでの時間」をユーザーが制御できるのがホールドオフです。
ホールドオフ時間を長くすると、トリガの発生間隔が広がり、
短くすると、より高頻度でトリガを受け付けるようになります。
この設定により、周期性が複雑な波形を安定して表示できるようになるのです。
■ホールドオフが必要になるケース
以下のような信号では、ホールドオフを調整することで大きな効果が得られます。
・複数パルスを含む信号:PWM信号やモータ駆動波形など
・シリアル通信信号:UART、SPI、I2Cなどの不規則な波形
・ノイズやグリッチを含む信号:誤トリガ防止に有効
・周期波形の一部を安定観測したい場合
これらの信号は、単純なエッジトリガだけでは安定せず、
波形が常にずれて見えることがあります。
ホールドオフ時間を調整することで、意図した位置で毎回トリガを発生させられます。
■設定の手順とコツ
トリガホールドオフは、多くのオシロスコープで数ナノ秒〜数ミリ秒の範囲で設定できます。
実際の調整は次のような手順で行います。
1.通常のトリガ(エッジなど)で波形を安定させる
2.画面上で波形の周期構造を確認する
3.1周期の中で次のトリガを防ぎたい区間の時間を推定する
4.その値をホールドオフに設定して波形の安定度を確認する
波形がゆっくり動いている場合はホールドオフが短すぎる可能性があり、
波形が更新されない場合は長すぎる可能性があります。
波形の動きが「ぴたり」と止まる位置が適切な設定値です。
■ホールドオフとトリガモードの組み合わせ
ホールドオフは、トリガモードと組み合わせることでさらに効果を発揮します。
・Normalモード:周期性のある波形で安定表示を得たい場合に有効
・Singleモード:単発イベントを1回だけ観測するとき、ホールドオフを使うと不要トリガを防止できる
・Autoモード:ホールドオフを短くしても画面更新が途切れず、初心者にも扱いやすい
このように、信号の種類と観測目的に合わせてモードと併用することで、より高精度な観測が可能です。
■実際の活用例
・PWM制御波形でデューティ比を安定表示
・UART通信でスタートビットを基準に固定観測
・パルス列に含まれる異常パルスを検出
・スイッチング電源のオン・オフ期間を区別して観測
これらのケースでは、ホールドオフ設定によって、
複雑な波形構造を明確に分離して表示することができます。
■誤トリガ防止にも有効
ホールドオフを適切に設定することで、ノイズや不要なスパイク信号への誤トリガを防止できます。
特に、同じ周期内に複数のエッジが存在する信号では、
誤トリガによる波形の揺れや不安定な再描画を防ぐ効果があります。
ホールドオフは「信号のどこでトリガをかけないか」を指定する技術とも言えます。
■まとめ:ホールドオフは“波形を整える最後のひと手間”
トリガホールドオフは、複雑な信号を安定表示させるための非常に有効な手段です。
周期構造を理解し、適切な時間を設定することで、
波形の揺れやズレを抑え、正確な観測結果を得ることができます。
OWONのオシロスコープは、ホールドオフ時間を直感的に調整できるインターフェースを備え、
PWM制御信号や通信波形などの安定表示に最適です。
トリガ設定の「最後の微調整」として、ホールドオフを活用することで、
観測の精度と再現性が格段に向上します。
Previous: 実験室で使いやすいオシロスコープの選び方
もっと用語集
- オシロスコープは「見えている=正しい」ではない
- 【技術コラム・入門〜初級】電気回路におけるインピーダンスの意味とは?
- 【技術コラム・入門〜初級】電気回路におけるコンデンサの重要な働きとは?
- OWONを「安心して選べる」人・選ばないほうがよい人
- 「測定が合わない」と言われたとき、まず考えること
- なぜ高級機と“まったく同じ測定”はできないのか
- 「十分な性能」と言える基準はどこか
- 安いオシロスコープは本当に危険なのか
- スペック表の数字は、どこまで信じていいのか
- 【技術コラム・入門〜初級】電気回路でよく見かける dB(デシベル)の意味とは?
- なぜ「帯域幅」だけ見てオシロを選んではいけないのか
- なぜ同じ測定なのに、測定値が毎回違うのか
- オート測定は信用していいのか
- ノイズはどこから来るのか(測定しているつもりで、実は拾っているもの)
- プローブをつなぐとなぜ波形が変わるのか
- 入力インピーダンス(50Ω / 1MΩ)をもう一段やさしく分解する
- トリガ(Trigger)をもう一段やさしく分解する
- 分解能(Resolution)をもう一段やさしく分解する
- 帯域幅(Bandwidth)をもう一段やさしく分解する
- 【技術コラム・入門〜初級】なぜ差動プローブが必要なのか?
- オシロスコープを替える前に、まず疑うべき3つのこと
- 【技術コラム・入門〜初級】なぜ帯域幅が重要なのか?足りないと何が起きるのか
- FFT 解析なのに、なぜ波形(スペクトル)が汚く見えるのか
- 【技術コラム・入門〜初級】アンプで欠かせない NFB(負帰還)とは?
- 【技術コラム・入門〜初級】プローブで測定結果が変わる理由とは?
- 【技術コラム・入門〜初級】なぜ高速信号は測りにくいのか?
- 【技術コラム・入門〜初級】帯域幅と立ち上がり時間の関係とは?
- 【技術コラム・入門〜初級】なぜ100MHzオシロスコープで10MHz信号が見えるのか?
- 【技術コラム・入門〜初級】スペクトラムアナライザとFFT解析は何が違うのか?
- 【技術コラム・入門〜初級】パッシブプローブとアクティブプローブの違いとは?
- 【技術コラム・入門〜初級】FFTで分かること・分からないこと
- 【技術コラム・入門〜初級】FFTで分かること・分からないこと
- 【技術コラム・入門〜初級】ノイズとは何か?なぜ見えないのに回路に影響するのか
- 【技術コラム・入門〜初級】FFT解析で失敗しない設定のコツとは?
- 【技術コラム・入門〜初級】FFT解析とは何か?周波数で見ると何が分かるのか
- 【技術コラム・入門〜初級】オシロスコープ設定で結果が変わる理由とは?
- 【技術コラム・入門〜初級】測定ミスはなぜ起きるのか?初心者が陥りやすい原因
- 【技術コラム・入門〜初級】なぜ波形は安定しないのか?よくある原因と考え方
- 【技術コラム・入門〜初級】オシロスコープでノイズを見るコツとは?
- 【技術コラム・入門〜初級】時間波形と周波数解析はどう使い分けるべきか?
- 【技術コラム・入門〜初級】チャタリングとは?なぜ起きるのか、どう対策するのか
- 【技術コラム・入門〜初級】プルアップ・プルダウンとは?知らないと起きるトラブル
