English  中文站
電子回路の基本知識(5)‐トランジスタの基本とスイッチング動作
- 2025/7/1 -

電子回路の基本知識(5)‐トランジスタの基本とスイッチング動作

電子回路における重要な能動素子のひとつが「トランジスタ」です。トランジスタは、アナログ増幅やデジタルスイッチなど多彩な用途に使用されており、現代の電子機器において欠かせない存在です。本稿では、トランジスタの基本構造と動作原理、特に「スイッチング動作」に焦点を当てて解説します。

■ トランジスタとは何か

トランジスタは、電流や電圧を制御することによって、別の電流を増幅・遮断することができる半導体素子です。トランジスタには主に以下の2種類があります。

・バイポーラ接合型トランジスタ(BJT)
・電界効果トランジスタ(FET)

それぞれ特徴がありますが、ここでは回路初心者にもなじみやすいBJT(NPN型)を中心に解説します。

■ NPN型トランジスタの構造

NPNトランジスタは、エミッタ(E)、ベース(B)、コレクタ(C)の3端子を持ちます。動作の基本は、ベースに小さな電流を流すと、コレクタからエミッタへ大きな電流が流れるというものです。つまり、「小さな電流で大きな電流を制御する」ことができます。

この性質はスイッチや増幅器として活用されます。

■ スイッチとしてのトランジスタ

トランジスタの代表的な使い方のひとつが「スイッチ」です。デジタル回路では、0(オフ)と1(オン)の状態を明確に制御する必要があるため、トランジスタのスイッチング能力が活かされます。

動作は次の2状態に分かれます。

・カットオフ(遮断)状態:ベースに電流が流れていない → コレクタ電流は流れない(スイッチオフ)
・飽和(導通)状態:ベースに十分な電流が流れている → コレクタ電流が流れる(スイッチオン)

このように、ベース電流の有無によって大電流のオン・オフを制御することができます。これは、LEDの点灯制御やモーター駆動にも広く用いられる手法です。

■ 実用例:LEDのスイッチング回路

次のような構成でトランジスタを使ってLEDを制御できます。

  • 電源(5V)

  • 抵抗を通してトランジスタのコレクタへ接続

  • エミッタはGNDに接続

  • ベースには制御信号(例えばマイコンの出力)を抵抗経由で接続

この構成により、マイコンの出力が「HIGH」になるとベース電流が流れ、トランジスタがオン、LEDが点灯します。「LOW」のときはトランジスタがオフになり、LEDも消灯します。

■ ベース抵抗の計算

ベース電流を適切に制限しないと、トランジスタが過熱して破損するおそれがあります。そこで、ベースには必ず「ベース抵抗(RB)」を挿入します。

抵抗値はおおよそ以下の式で求めます。

RB = (制御電圧 − Vbe)÷ ベース電流

ここで、Vbeはベース-エミッタ間電圧で、一般的に約0.7Vです。ベース電流は、コレクタ電流(LEDを流す電流など)をトランジスタの増幅率(hFE)で割った値が目安になります。

■ デジタル回路との関係

マイコンやロジックICは、1ピンあたりの出力電流が小さいため、直接LEDやリレーを駆動するのが難しい場合があります。こうした場面では、トランジスタが「電流増幅器」として使われ、負荷のオン・オフを安全かつ効率的に制御できます。

また、トランジスタはAND回路やOR回路など、論理回路の構成要素としても利用されます。これは、後のCMOS論理やTTLなどの集積回路設計にも通じます。

■ FETとの違い(簡単に)

FETは、ゲート電圧によってドレイン・ソース間の電流を制御するトランジスタで、BJTとは動作原理が異なります。FETは電圧制御型で入力インピーダンスが高く、消費電力が少ないため、スイッチング電源や高速デジタル回路によく使われます。

初心者にとっては、まずNPN型BJTの動作を理解した上で、MOSFETやJFETなどのFET系に進むと理解が深まりやすくなります。

■ 注意点

・トランジスタは極性のある素子です。ピンの向きや接続ミスによる破損に注意。
・ベース電流を流しすぎると過熱の原因になります。
・コレクタ電流と電圧が同時に大きいとき、放熱設計が必要な場合もあります。

■ まとめ

トランジスタは「小さな入力で大きな出力を制御する」ことができる、電子回路の基本中の基本です。特にスイッチ動作は理解しやすく、LED制御やマイコン回路との接続で実際に試すことで、動作の感覚をつかみやすくなります。

次回は「電子回路の基本知識(6)‐論理回路と基本ゲート」へと進み、トランジスタをベースとしたデジタル論理の基礎についてご紹介します。