オシロスコープ プローブ応用(4)シャント抵抗を使った電流測定の実践
■はじめに
電流波形の測定は、電子機器の消費電力分析や回路の過渡特性評価、電源設計の検証など、さまざまな場面で重要となる。特に突入電流やパルス電流、マイクロアンペアレベルの微小電流を把握するには、高速かつ高分解能の測定手法が求められる。
本稿では、シャント抵抗を用いた電流測定に焦点を当て、プローブの選定と接続、波形解析の具体的な方法について解説する。
■シャント抵抗による電流測定の基本原理
シャント抵抗を回路中に直列に挿入し、その両端に発生する電圧降下をオシロスコープで測定することで、電流値を間接的に取得する。オームの法則に基づき、測定電圧を抵抗値で割れば電流値が得られる。
たとえば、1Ωのシャント抵抗に10mVの電圧降下が観測された場合、流れている電流は10mAとなる。
この手法はシンプルかつ高精度だが、いくつかの注意点も伴う。
■シャント抵抗の選定と配置の工夫
抵抗値が大きいと測定感度は高くなるが、回路に与える影響も大きくなる。逆に抵抗値が小さいと回路の影響は減るが、得られる電圧が小さくなりノイズの影響を受けやすくなる。
一般的には以下のような目安で抵抗値を選定する。
マイクロアンペア〜ミリアンペア:1Ω〜10Ω
10mA〜1A:0.01Ω〜1Ω
1A〜10A以上:0.001Ω〜0.1Ω
また、シャント抵抗は電源ラインなどのグラウンド側に配置されることが多いが、グラウンドが共有されている場合は差動測定が必要となる。高サイド測定(電源ライン側)では必ず差動プローブを使用し、接地の衝突を避ける必要がある。
■プローブの選定と接続方法
電圧差が小さいため、高感度かつ高CMRRの差動プローブが基本となる。信号帯域に応じて帯域が数MHz〜100MHz程度のアクティブ差動プローブを選ぶのが一般的である。
さらに、プローブのノイズフロアが測定対象より低いことが望ましい。オシロスコープ本体が12ビット分解能以上であれば、低電圧でもより正確な観測が可能になる。
接続の際には、プローブの先端をシャント抵抗の端子に直接接触させ、リードは短く固定して浮遊容量や誘導の影響を避ける。
■シャント抵抗とプローブの組み合わせ例
0.1Ωシャント+アクティブ差動プローブ(帯域100MHz、感度10mV/div)
→ 10mA以上の電流波形観測に適する。スイッチング回路や小型モータ駆動の過渡波形測定に有効。
1Ωシャント+パッシブプローブ(感度1mV/div以上)
→ マイクロアンペアレベルの低周波電流に有効。ただしノイズ対策が重要。
0.01Ωシャント+12ビットオシロ+差動プローブ
→ 電源ラインなど大電流系の突入電流測定に対応可能。突入電流の波形や立ち上がり時間の解析に活用できる。
■測定誤差の要因と補正方法
シャント抵抗の自己発熱による抵抗値の変化、リード線のインダクタンスによる高周波応答の劣化、接触抵抗などが誤差要因となる。
これを防ぐためには、以下の対策が効果的である。
誤差の少ない金属皮膜抵抗などを使用する
短く太い配線で接続し、電流経路と測定経路を分離する
オシロスコープ側で測定結果に対してスケーリング(倍率補正)を行う
シャント抵抗自体の電圧降下を定期的に較正しておく
■波形解析と応用
シャント抵抗測定の最大の利点は、時間軸方向に非常に高い分解能で電流の変化を捉えられることにある。以下のような応用が可能である。
突入電流のピーク検出
PWM制御のデューティ比と電流の相関分析
スタンバイ時の微小電流の変動監視
デバイスの短絡・過電流異常検出
バッテリー残量推定のための累積電流積算(積分)
これらは専用の電流プローブでは捉えきれない周波数帯域や分解能での分析が可能であり、より詳細な評価を実現できる。
■まとめ
シャント抵抗を用いた電流測定は、正確かつ高速に電流波形を取得する手法として非常に有効である。特に微小電流から大電流まで、応用範囲が広く、コストも比較的低い。
測定対象に応じた抵抗値の選定と、差動プローブを中心とした測定環境の構築が成功の鍵となる。今後はこうした測定手法とオシロスコープの機能を組み合わせた自動解析にも注目が集まっている。
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