オシロスコープ プローブ応用(7)微小差動信号と周波数ノイズの観測
はじめに
電源回路やセンサ回路などのアナログ信号では、数mV〜数十mVといった微小な電圧差を精度良く測定する必要がある場面が多い。また、こうした信号には高周波ノイズが重畳されていることがあり、波形の視認だけでなくスペクトル成分の解析が求められる。本稿では、微小差動信号の観測手法と、周波数ノイズの抽出に役立つオシロスコープ機能について解説する。
微小信号観測における課題
微小な差動信号を正確に観測するには、以下のような課題がある。
観測対象の信号レベルがオシロスコープのノイズフロアと同程度
測定系に乗るコモンモードノイズの影響が大きい
プローブやケーブルの浮遊容量によって信号が変質する
GNDループによる低周波ノイズ(商用電源50Hz/60Hz)への感度が高い
これらを回避するためには、適切なプローブの選定と測定条件の設定が不可欠である。
推奨されるプロービング手法
微小差動信号の測定には、高感度で低ノイズの差動プローブを使用することが推奨される。プローブの仕様としては以下の点が重要である。
低ノイズ入力(例:ノイズ密度10nV/√Hz以下)
高コモンモード除去比(CMRRが100dB以上)
帯域制限機能(ノイズ抑制目的)
オフセット調整機能(直流バイアス除去)
特に注意すべきは、被測定点のGNDにプローブのGNDを安易に接続しないこと。差動プローブを使用することで、対象信号の正確な差分成分のみを観測できる。
差動プローブと受動プローブの比較
受動プローブを2本使ってA-Bの差を計算する方法もあるが、オシロスコープ側のチャネル間スキューや周波数特性のばらつきにより、差分波形に誤差が生じやすい。特に高周波ノイズの成分や立ち上がりの急な信号では不正確になるため、真に必要な観測には専用の差動プローブを使用することが望ましい。
FFT機能による周波数ノイズ解析
オシロスコープには、時間波形を周波数ドメインに変換して表示するFFT(高速フーリエ変換)機能が搭載されているモデルが多い。これを用いることで、微小信号に含まれるノイズ成分を可視化することができる。
たとえば、電源ラインに重畳された高周波ノイズやスイッチング電源のスプリアス、EMI源の特定などに有効である。
FFT機能を活用する際のポイントは以下の通り。
長い時間軸スパンで記録し、分解能を高める
ウィンドウ関数(ハニングやブラックマン)を適切に選ぶ
平均化を有効にし、信号の安定性を向上させる
波形更新レートが高い機種を選ぶことで過渡ノイズも追いやすい
周波数帯域やノイズ源の周波数が明確であれば、帯域制限フィルタやノッチフィルタを併用することで解析の精度をさらに向上できる。
EMI対策と観測の実践例
ノイズ対策の効果を可視化する場面でも、オシロスコープと高感度プローブの組み合わせは有効である。例えば以下のようなシーンがある。
電源ラインのリップルノイズを測定
→ 1〜5mV程度の交流成分が重畳される。帯域20MHz以下で測定すると実効値の把握に役立つ。
センサ信号のベースラインの揺らぎ評価
→ 帯域を制限し、微小な直流ドリフトやノイズの有無を視覚的に把握できる。
高周波干渉源(EMI)の検出
→ FFTモードでノイズ源の周波数を突き止め、シールドやグランド処理の効果を比較可能。
プロービングの工夫とノイズ抑制の実践
微小信号測定では、プローブの先端構造や配線取り回しによっても結果が大きく異なる。以下の点に注意したい。
できる限り短いGNDリードを使用し、ループ面積を小さくする
周囲のノイズ源(電源、モーター、Wi-Fi機器)から距離を取る
浮遊容量の大きい配線やピン先への接触を避ける
必要に応じて金属シールドを追加し、電磁波の遮蔽を強化する
また、測定対象がバッテリ駆動回路である場合には、絶縁型の差動プローブが効果的である。光アイソレーションタイプであれば、GNDループの発生を完全に防げるため、さらに安定した測定が可能になる。
まとめ
微小な差動信号や高周波ノイズの観測は、プローブの特性とオシロスコープの解析機能の両方を駆使することで、正確かつ有意義なデータを得ることができる。FFTなどの周波数解析機能を組み合わせることで、リップルノイズやEMIの評価、微細な信号変動の原因特定にも対応可能となる。
今後のアナログ回路設計やEMC対策では、このような高精度な測定と解析スキルがますます重要になるだろう。
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