微小差動信号の正確な測定法
微小差動信号とは何か
差動信号とは、2本の信号線に逆位相の電圧を与え、電圧差によって情報を伝送する方式である。ノイズに強く、高速伝送が可能なため、LVDSやRS-485、CAN、USB、SATAなど、多くのデジタル通信で広く使われている。中でも、数mVから数十mV程度の非常に小さな電圧差を扱う「微小差動信号」は、計測・医療・センサ関連の分野で重要な存在である。しかし、正確に測定するためには、プロービングの工夫と適切な機材選定が欠かせない。
微小差動信号測定における課題
微小な差動信号を測定する際に最大の課題となるのは、外部ノイズや共通モード成分の影響である。信号そのものが微弱なため、わずかなコモンモード電圧や接地ノイズが観測結果を大きく狂わせてしまう。また、従来のプローブで直接測定を行うと、GNDループが生じ、誤差や信号の歪みが生じるケースも少なくない。信号源が浮いていたり、グランド電位に差がある場合も注意が必要である。
適切なプローブの選定
微小差動信号の測定には、専用の差動プローブが必要である。これらのプローブは、2本の入力端子で信号を受け取り、差動成分のみを抽出して出力する構造となっている。入力インピーダンスが高く、ノイズに強い回路設計が施されており、差動帯域幅やコモンモード除去比(CMRR)が重要なスペックとして求められる。たとえば、100MHz帯域を持つ差動プローブであっても、CMRRが低いと微小信号に大きく影響してしまう。できるだけ高CMRRのモデルを選ぶことが、正確な測定への第一歩となる。
光アイソレーション技術の活用
近年、光アイソレーション型の差動プローブが注目されている。これは入力と出力を完全に光で絶縁することで、従来の電子回路式に比べてコモンモードノイズに対する耐性が飛躍的に向上する構造である。特にμV単位の差動成分を扱う測定では、従来方式では捉えきれなかった微細な変化まで視認可能となる。浮遊電位や接地差のある対象でも高精度な波形取得が可能となり、医療用センサや高精度電流測定に有効である。
測定環境の整備とノイズ対策
微小信号の測定では、プローブやオシロスコープだけでなく、測定環境全体のノイズ対策が重要である。まず、測定対象を金属ケースでシールドし、可能であれば測定系全体を金属板の上に設置することで、外来ノイズを低減できる。また、電源はノイズの少ない安定化電源を用い、アースの取り方にも注意を払う必要がある。信号ケーブルはできる限り短く、ツイストペア構造のものを選び、不要なアンテナ効果を防ぐ。USB接続などの周辺機器も、場合によっては絶縁アダプタの使用を検討すべきである。
オシロスコープの設定と観測の工夫
オシロスコープで微小差動信号を正確に捉えるには、プローブとオシロスコープの設定を最適化することが求められる。まず、垂直軸の感度はできるだけ高く、可能であれば500μV/div以下に設定する。12ビットや16ビットの高分解能モードを搭載したオシロスコープを使用すれば、微小波形の再現性が飛躍的に高まる。平均化機能を活用すればノイズを抑えた波形表示が可能であり、さらに帯域制限フィルタを活用することで高周波ノイズの影響を抑制できる。トリガ設定も重要であり、微小信号に対して安定してトリガをかけるためには、専用のトリガモードやヒステリシスの調整も効果的である。
実際の応用例と注意点
微小差動信号の測定は、さまざまな応用分野で必要とされる。例えば、電流センサ出力、ホール素子、超音波センサ、バイオ電位信号など、いずれも微小かつノイズに弱い信号である。正確な測定には、毎回プローブと測定対象との接続を見直し、安定した接触と再現性のある配置を意識することが重要である。また、信号源側のバッファやインピーダンス整合も結果に影響を与えるため、回路設計段階から測定しやすい構成を意識することが求められる。
まとめ
微小差動信号の正確な測定は、単にプローブを当てるだけでは実現できない。測定環境の整備、高性能な差動プローブの選定、ノイズ対策、オシロスコープの設定と観測手法の工夫、これらをすべて組み合わせて初めて、正確な波形再現と定量評価が可能となる。現代の精密電子機器開発において、こうした測定スキルは不可欠であり、継続的な知識と技術の習得が成功の鍵を握る。
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