放電試験でわかるバッテリの内部抵抗
バッテリの性能を評価するうえで、容量と並んで重要な指標が「内部抵抗」です。
内部抵抗とは、バッテリの内部に存在する電気的な抵抗成分であり、電流を流したときの電圧降下の原因となるものです。
この内部抵抗が大きいほど、負荷をかけた際の電圧低下が大きくなり、電力を効率的に供給できなくなります。
放電試験を行うことで、この内部抵抗の傾向を安全かつ定量的に把握することができます。
内部抵抗は、バッテリの健康状態を示す“体温計”のような存在です。
新品のときは低く安定していますが、長期間の使用や高温環境での充放電を繰り返すと、化学反応の劣化により徐々に上昇します。
抵抗値が増えると、発熱が大きくなり、容量も低下します。したがって、定期的な放電試験によって内部抵抗を確認することは、バッテリの安全運用に欠かせません。
放電試験の基本は、バッテリに一定の電流を流し、電圧変化を観察することです。
一般的な方法として、まず無負荷時の電圧を測定し、その後、電子負荷などで一定の電流を流して放電させます。
このときの電圧降下を電流値で割ることで、おおまかな内部抵抗を推定できます。
さらに、ステップ状に電流を変化させたときの瞬時の電圧応答を観察すれば、動的な内部抵抗(瞬間的な応答性)も読み取れます。
試験を行う際の最優先事項は安全管理です。
バッテリは化学エネルギーを蓄えた装置であり、過放電や短絡は重大事故につながるおそれがあります。
試験中は以下の点を必ず守りましょう。
・放電電流を設定する際は、対象バッテリの定格を超えない範囲にすること
・終止電圧(放電を終了する下限電圧)を明確に決め、到達したら即座に停止すること
・接続ケーブルは太く短く、接触抵抗や発熱を避けること
・試験中は必ず監視を行い、異常な発熱や膨張が見られた場合は即停止すること
・試験後はバッテリを冷却し、再充電前に十分な休止時間をとること
また、放電試験では温度の影響が大きいため、環境条件を一定に保つことも重要です。
温度が高いと内部抵抗が一時的に下がりますが、化学的な劣化が進みやすくなります。
逆に低温では内部抵抗が上昇し、容量が低下します。試験結果を比較する際は、温度条件を必ず記録しておきましょう。
電子負荷を使うと、放電電流を一定に保ちながら安全に試験を進めることができます。
さらに、電圧や電流の変化をリアルタイムでモニタリングすれば、容量特性や放電カーブを得ることも可能です。
これらのデータを継続的に記録すれば、バッテリの劣化傾向や寿命予測に役立ちます。
注意すべき点として、複数セルを直列または並列に接続しているパック型バッテリでは、セル間のバランスにも気を配る必要があります。
1セルでも過放電すると、他のセルに悪影響を及ぼし、内部圧力の上昇や発熱の原因となります。
セルごとの電圧を測定し、極端な差がないかを確認することが安全な放電試験の基本です。
試験が終了したら、バッテリ端子間の残留電圧を必ず確認し、短絡しないように絶縁キャップを装着します。
未放電のバッテリや試験直後のセルは高温になっている場合があるため、金属面への直接接触を避け、耐熱トレイなどに置きます。
放電試験は、バッテリの性能と安全性を客観的に評価するための有効な手段です。
内部抵抗の変化を早期に検出できれば、過熱や劣化によるトラブルを未然に防ぐことができます。
正しい手順と安全意識を持ち、定期的な点検・記録を行うことで、信頼性の高いエネルギー管理が可能になります。
🌐 電子負荷・電源試験シリーズ(全8回)目次
第1回: 電子負荷を使った電源試験の基本ステップ
└ 電子負荷の役割と原理、定電流・定電圧試験の進め方、安全な手順を解説。
第2回: 電源レギュレーションとは?安定性評価の考え方
└ 負荷変化・入力変化による電圧変動を評価し、安定性を確認する基本概念。
第3回: トランジェント試験(過渡応答試験)の目的と測定の流れ
└ 負荷急変時の電圧応答を解析し、電源制御の応答性を理解する試験手法。
第4回: 放電試験でわかるバッテリの内部抵抗
└ 放電による電圧変化から内部抵抗を推定し、バッテリの劣化や安全性を評価。
第5回: 電源試験の自動化が進む理由
└ 測定の再現性・安全性・効率を高める自動化の意義と実施上の注意点。
第6回: 実験室で使いやすい直流電源の選び方
└ 教育・研究・評価現場に適した電源選定のポイントと安全運用の基本。
第7回: 計測器を安全に使うための接続・アースの基本
└ 保護接地・信号接地の違い、誤接続防止、静電気対策までを体系的に整理。
第8回: 教育現場で学ぶエネルギー変換の実験テーマ
└ 電気エネルギーの変換原理を安全に学ぶ実験テーマと教育的意義を紹介。
製品情報
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