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計測器を安全に使うための接続・アースの基本
- 2025/10/6 -

計測器を安全に使うための接続・アースの基本

電源装置や電子負荷、オシロスコープなどの計測器を使う際に、最も重要なポイントの一つが「アース(接地)」です。
正しいアース接続は、計測精度を高めるだけでなく、感電や機器損傷といった重大事故を防ぐための基本でもあります。
一見地味な作業に思えるかもしれませんが、安全で安定した測定環境をつくるうえで欠かせない要素です。

アースにはいくつかの種類があります。
最も基本的なのは、電気設備の安全を確保するための**保護接地(Protective Earth)**です。
これは電源装置や計測器の金属筐体を地面(アース)に接続し、内部で漏電が起きた場合に電流を安全に逃がすためのものです。
これにより、筐体に電圧がかかっても使用者が触れて感電するリスクを防げます。

もう一つは、測定精度を向上させるための**信号接地(Signal Ground)**です。
これは、測定回路や信号ラインの基準電位を安定させる目的で使われます。
特にオシロスコープやデータロガーなどでは、測定対象と接地の関係が波形の正確さに影響します。
信号接地が不安定だと、ノイズや誤差が発生し、正しいデータが得られないことがあります。

これらの接地を行う際の基本原則は、「一本化と分離のバランス」です。
安全を確保するための接地と、信号精度を守るための接地を適切に整理し、ループ(閉回路)ができないように配線します。
複数のアース線を不用意に接続すると、アース電位差によって「グランドループ」が発生し、ハムノイズや誤動作の原因になります。
したがって、実験室ではアースの取り回しをできるだけシンプルに保ち、1点でまとめて接続する「一点アース方式」が推奨されます。

接続時の注意点として、まず電源をOFFにしてからケーブルを接続することが大前提です。
計測器同士を接続する際、電位差が残っているとスパーク(火花)や端子損傷の恐れがあります。
特に電子負荷や電源装置を併用する試験では、各機器の極性とアースの共通点を必ず確認してください。
誤って極性を逆に接続すると、瞬時に機器が破損する場合もあります。

また、アース線には「できるだけ短く・太い」ものを使用します。
細く長いケーブルは抵抗やインダクタンスが大きく、漏れ電流やノイズの原因になります。
理想的には、金属ラックや共通の接地端子板を利用して、各計測器を同じポイントに接地する方法が望ましいです。
接触部には酸化防止剤を塗布したり、定期的に清掃することで、接続抵抗を低減できます。

安全面では、電源コードの3ピン(アース付き)プラグを正しく使用することも大切です。
時々、作業スペースの都合でアースピンをカットしたり、2ピン変換アダプタを使うケースがありますが、これは非常に危険です。
保護接地が切断されると、内部漏電時に筐体が高電位になり、感電の恐れがあります。
必ずアース付きコンセントを使用し、延長ケーブルや電源タップにもアース線が通っているか確認しましょう。

静電気対策もアースの一部と考えられます。
冬場の乾燥した環境では、人体や作業台に帯電した電荷が敏感な電子部品を破壊することがあります。
作業者はリストストラップや導電マットを使って、静電気を安全に逃がします。
この静電気対策アースも、保護接地と混同せず、専用のESD(静電気放電)接地ポイントに接続するのが基本です。

最後に、アースを正しく取っていても、周囲の環境が悪いと安全性や測定精度は低下します。
近くに高電力の機械やインバータ機器がある場合、電磁ノイズが接地経路に入り込むことがあります。
その場合は、シールドケーブルやフェライトコアを併用し、ノイズ経路を遮断します。
また、定期的にアース抵抗を測定し、劣化や断線がないかを確認することも忘れてはいけません。

計測器を安全に使うためのアース接続は、習慣として身につけることが重要です。
「正しい接地」「確実な接続」「不要なループを作らない」——この3つを常に意識することで、
人にも機器にもやさしい安全な実験環境を維持できます。

 



🌐 電子負荷・電源試験シリーズ(全8回)目次

第1回: 電子負荷を使った電源試験の基本ステップ
 └ 電子負荷の役割と原理、定電流・定電圧試験の進め方、安全な手順を解説。

第2回: 電源レギュレーションとは?安定性評価の考え方
 └ 負荷変化・入力変化による電圧変動を評価し、安定性を確認する基本概念。

第3回: トランジェント試験(過渡応答試験)の目的と測定の流れ
 └ 負荷急変時の電圧応答を解析し、電源制御の応答性を理解する試験手法。

第4回: 放電試験でわかるバッテリの内部抵抗
 └ 放電による電圧変化から内部抵抗を推定し、バッテリの劣化や安全性を評価。

第5回: 電源試験の自動化が進む理由
 └ 測定の再現性・安全性・効率を高める自動化の意義と実施上の注意点。

第6回: 実験室で使いやすい直流電源の選び方
 └ 教育・研究・評価現場に適した電源選定のポイントと安全運用の基本。

第7回: 計測器を安全に使うための接続・アースの基本
 └ 保護接地・信号接地の違い、誤接続防止、静電気対策までを体系的に整理。

第8回: 教育現場で学ぶエネルギー変換の実験テーマ
 └ 電気エネルギーの変換原理を安全に学ぶ実験テーマと教育的意義を紹介。