FFT解析で見る周波数成分 ― オシロスコープで“時間”から“周波数”を読み解く
電子信号は、時間とともに変化するだけでなく、複数の周波数成分が重なり合って構成されています。
FFT解析(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)は、オシロスコープに記録された時間波形を周波数の成分に分解し、「どの周波数にどの強さの信号が含まれているか」を可視化する機能です。
ここでは、FFT解析の基本原理と、オシロスコープで周波数成分を見る際の実践的なポイントを解説します。
時間領域と周波数領域 ― 信号の見方を変える
通常のオシロスコープ画面では、横軸が時間、縦軸が電圧です。これを時間領域(Time Domain)と呼びます。
一方、FFT解析は、波形を周波数領域(Frequency Domain)に変換します。
横軸が周波数、縦軸が振幅(電圧やパワー)となり、信号に含まれる周波数ごとのエネルギー分布を確認できます。
たとえば、正弦波をFFT解析すると、1つの周波数成分だけがピークとして現れます。
一方、矩形波を解析すると、基本波のほかに高調波(3倍・5倍・7倍…)が連続して表示され、その構成の違いが一目でわかります。
FFT解析の基本原理 ― 波形を成分に分解する
FFTはフーリエ変換の一種です。あらゆる波形は、異なる周波数の正弦波の組み合わせで表現できます。
FFTは、その組み合わせ比率を高速に計算し、結果をグラフで表示します。
オシロスコープでは、測定した一定時間分の波形データをもとにFFT演算を行い、各周波数に含まれる信号の強さ(スペクトル)を出力します。
ピークが鋭い場合は特定の周波数が支配的であり、幅広い分布が見える場合は複数の周波数成分が混在しています。
高周波側に小さな山が並ぶ場合は、ノイズや高調波が含まれていることを意味します。
このように、FFTは波形の中身を分解して見るための分析ツールです。
オシロスコープでFFTを使う実践ステップ
FFT解析を行う手順は、基本的に次の3ステップです。
1.観測信号を安定表示する
まず通常の時間波形を観測し、トリガ設定で波形を安定させます。
2.FFTモードに切り替える
OWONのオシロスコープでは、メニューから「FFT」または「スペクトラム解析」を選択します。
3.周波数軸スケールとレンジを調整する
観測したい周波数範囲に応じて、スパン(周波数幅)とセンター周波数を設定します。
FFT表示では、横軸が周波数、縦軸が振幅(dBVなど)となります。信号のピーク位置が、その信号の周波数を表します。
FFT解析でわかること ― 実例を交えて
交流電源のリップル解析
直流電源の出力をFFT表示すると、50Hzまたは100Hz付近に明確なピークが見えます。これは整流残りのリップル成分であり、電源フィルタの効果確認に利用できます。
スイッチング電源のノイズ解析
数十kHz〜数百kHzにピークが見える場合、スイッチング周波数の影響です。高調波成分が強く出る場合、フィルタやシールドの見直しが必要になります。
オーディオ信号の歪み確認
入力が1kHzの正弦波なのに、FFTで3kHz・5kHz成分が見える場合、アンプ回路に歪みが発生していることを示します。
FFT解析では、こうした隠れた周波数成分やノイズの混入を可視化できます。
FFT解析を正しく使うための注意点
FFTは強力なツールですが、正しい設定をしないと誤った結果になります。
時間軸のサンプリングレートを確認する
解析可能な最大周波数(ナイキスト周波数)は、サンプリングレートの半分です。
ウィンドウ関数を適切に選ぶ
観測波形が周期的でない場合、ハミング窓・ブラックマン窓などを選択することでスペクトル漏れを抑えられます。
ノイズフロア(背景レベル)を理解する
微小信号を観測するときは、オシロスコープ自身のノイズレベルを考慮します。
OWONオシロスコープのFFT解析機能の特長
OWONのデジタル・オシロスコープには、FFT解析機能が標準搭載されています。
・リアルタイム波形とFFTを同時表示
・スパン・センター周波数・レンジの直感操作
・12ビット高分解能モデルでは微小ノイズまで表示可能
・データをUSBやLANで保存し、後処理や比較も容易
これにより、時間波形と周波数成分を一体的に理解できる環境を実現しています。
まとめ ― 周波数で“見る力”が信号理解を深める
FFT解析は、単に波形を見るのではなく、信号の構造を理解するための強力な手段です。
電源、通信、オーディオ、センサー回路など、あらゆる電子分野で応用されています。
OWONのオシロスコープを使えば、時間波形と周波数解析をワンステップで実行でき、設計や教育の現場で“電気の見える化”をさらに進めることができます。
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