オシロスコープの帯域幅とノイズの関係 ― 広帯域になると何が変わるのか
オシロスコープのカタログを開くと、まず目に入るのが「帯域幅(Bandwidth)」という項目です。
帯域幅は、どの範囲の周波数まで正確に信号を観測できるかを示す重要な指標です。
しかし、帯域幅が広くなると、ノイズも増えるという性質があります。
ここでは、その理由と正しい使い方をわかりやすく解説します。
帯域幅とは ― 信号の通り道の広さ
帯域幅とは、オシロスコープが忠実に測定できる周波数範囲を表します。
例えば100MHz帯域のオシロスコープであれば、100MHzまでの信号成分を正しく再現できます。
帯域が狭いと高周波成分が減衰し、波形の立ち上がりや細かい変化が見えにくくなります。
逆に帯域が広いと、より速い信号や高周波ノイズまで観測できます。
つまり、帯域幅は「どこまで細かい変化を見たいか」に応じて選ぶ指標です。
電子回路の応答速度やノイズの影響を評価するには、十分な帯域を確保する必要があります。
帯域が広いほどノイズが増える理由
信号には目的の成分だけでなく、環境や回路からのノイズも含まれています。
オシロスコープの帯域幅を広げると、観測できる周波数範囲が拡大し、
その分ノイズ成分も多く取り込まれるようになります。
これは、広い帯域が「より多くの周波数を通す」フィルタのように働くためです。
高周波成分の中には、信号ではなくノイズが多く含まれており、
帯域を広く設定すると画面上の波形が“ざらつく”ように見えることがあります。
このため、測定の目的によっては、むやみに広帯域を使うより、
必要な範囲だけ通す設定にした方が安定した観測ができます。
帯域制限(Bandwidth Limit)機能の活用
多くのデジタル・オシロスコープには、帯域を制限する機能が搭載されています。
「Bandwidth Limit」または「BW Limit」と表記され、通常は20MHzリミットが選択可能です。
この設定を有効にすると、20MHz以上の高周波ノイズがカットされ、波形がより滑らかになります。
特に低周波信号や電源回路などを測定する場合は、このリミットを有効にすることで、
必要な成分だけを安定して観測できます。
逆に、高速デジタル信号や立ち上がり時間を評価する際は、リミットを解除し、
帯域を最大限に確保することが重要です。
帯域と立ち上がり時間の関係
帯域幅は、信号の立ち上がり時間とも密接に関係しています。
一般に、オシロスコープの帯域幅を f(Hz)とすると、観測可能な最短立ち上がり時間 tr は
おおよそ tr ≈ 0.35 / f で求められます。
例えば100MHz帯域では、約3.5nsの立ち上がり時間まで正確に観測できます。
もし1ns以下の高速信号を扱う場合は、500MHzクラスのオシロスコープが必要です。
つまり、帯域を上げることでより急激な変化を見られるようになりますが、
同時に高周波ノイズも多く観測されるというトレードオフが存在します。
ノイズを低減する観測テクニック
帯域が広い場合でも、次のような工夫でノイズの影響を抑えることができます。
・プローブのグラウンドを短くし、ループ面積を小さくする
・ACカップリングを使用して直流オフセットを除去する
・アベレージ(平均化)機能を使ってランダムノイズを低減する
・測定環境を整理し、周囲の電源ケーブルや無線機器からの干渉を減らす
これらを実施することで、広帯域設定でも安定した波形観測が可能になります。
測定目的に応じた帯域選択の考え方
オシロスコープを選ぶ際は、単に「帯域が広いほど良い」とは限りません。
扱う信号の周波数や解析目的に応じて、最適な帯域を選ぶことが重要です。
・低周波電源やアナログ信号の観測 → 20〜100MHzクラスで十分
・マイコン通信やPWM制御などの汎用測定 → 200〜350MHzクラス
・高速デジタル信号やRF応用 → 500MHz〜1GHz以上
目的に合わせた帯域を選ぶことで、ノイズを必要以上に拾わず、正確な測定が行えます。
OWONオシロスコープの帯域設計と観測安定性
OWONのオシロスコープは、広帯域モデルでもノイズレベルを低く抑える設計が採用されています。
さらに、Bandwidth Limit、アベレージ処理、FFT解析などの機能を標準搭載しており、
帯域とノイズの関係を直感的に学べる環境が整っています。
教育現場では、20MHzリミットを活用して基礎実験を行い、
研究・開発現場では高帯域モードでノイズ成分を詳細に観測するなど、
シーンに応じた使い分けが可能です。
まとめ ― 帯域は「広さ」と「静かさ」のバランス
帯域幅を広げれば多くの情報を得られますが、その分ノイズも増えます。
逆に帯域を絞れば波形は安定しますが、細かな変化は見えにくくなります。
重要なのは、測定目的に応じて帯域とノイズのバランスを取ることです。
OWONのオシロスコープは、帯域・ノイズ・解析機能のすべてを高い水準で両立し、
教育から設計評価まで幅広い現場で正確な波形観測を支えています。
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