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立ち上がり時間と帯域の関係をもっと詳しく ― 波形の速さを正しく測るために
- 2025/10/14 -

立ち上がり時間と帯域の関係をもっと詳しく ― 波形の速さを正しく測るために

オシロスコープを使って電気信号を観測するとき、よく話題になるのが「立ち上がり時間(Rise Time)」です。
スイッチング回路やデジタル信号のように、電圧が一瞬で変化する波形を正しく観測するには、
オシロスコープの帯域幅が大きく影響します。
ここでは、立ち上がり時間と帯域の関係を数式と実例を交えてわかりやすく解説します。


立ち上がり時間とは何か

立ち上がり時間とは、信号が低いレベルから高いレベルに変化するのにかかる時間です。
一般的には、波形の10%から90%に達するまでの時間を指します。

たとえば、デジタル回路で0Vから5Vに切り替わる信号があるとします。
このとき、0.5V(10%)から4.5V(90%)に上がるまでの時間が「立ち上がり時間」です。
理想的なスイッチでは瞬時に変化しますが、実際の電子回路には容量やインダクタンスが存在するため、
電圧は少しずつ変化します。

この立ち上がりの速さを測定することは、回路の応答性や品質を評価する上で非常に重要です。


立ち上がり時間と帯域の基本式

オシロスコープで観測できる立ち上がり時間は、
帯域幅(Bandwidth:f)と次の近似式で関係づけられます。

 tr ≈ 0.35 / f

ここで、trは観測可能な最短立ち上がり時間(秒)、fは帯域幅(Hz)です。

この式は、オシロスコープの内部増幅回路を単純な一次ローパスフィルタとして近似した場合の結果です。
例えば、100MHz帯域のオシロスコープなら
tr ≈ 0.35 / 100×10⁶ ≈ 3.5ns
となり、約3.5ナノ秒より速い立ち上がりは正確に観測できません。

つまり、信号の立ち上がりが速くなるほど、高帯域のオシロスコープが必要になります。


測定系全体の立ち上がり時間を考える

実際に測定するとき、オシロスコープだけでなくプローブや回路自体にも立ち上がり時間があります。
観測される波形の立ち上がり時間 tr_total は、次のように合成されます。

 tr_total² = tr_scope² + tr_probe² + tr_signal²

これは、個々の遅れが独立して加わると考えた近似式です。
オシロスコープの帯域を上げても、プローブの応答が遅ければ全体の立ち上がりは改善しません。
そのため、高速信号を扱う場合は、帯域だけでなくプローブ仕様も慎重に確認する必要があります。


帯域が不足すると何が起こるか

帯域が信号より狭い場合、オシロスコープが波形の高周波成分を再現できず、立ち上がりが遅く表示されます。
本来は1nsで変化している信号でも、測定結果が3nsや5nsと表示されることがあります。
このような場合、信号自体が遅いのではなく、オシロスコープの性能が追いついていないだけです。

また、帯域不足によって波形の形も変化します。
立ち上がりが丸くなり、オーバーシュートやリンギング(波打ち)が目立たなくなることがあります。
見た目がきれいでも、実際の波形とは異なる点に注意が必要です。


立ち上がり時間を正確に測るコツ

・オシロスコープの帯域は、信号の周波数成分の少なくとも5倍を目安に選ぶ
・高周波信号には高帯域プローブを使用する
・プローブの接地線を短くして不要なインダクタンスを減らす
・アベレージ機能を使用してランダムノイズを抑える
・トリガ位置を適切に設定し、波形の再現性を高める

これらを実施することで、測定誤差を最小限に抑え、正確な立ち上がり時間が得られます。


高帯域モデルのメリットと注意点

高帯域のオシロスコープを使うと、微小な立ち上がり時間や高周波成分を忠実に観測できます。
しかし同時に、ノイズも拾いやすくなる点には注意が必要です。
高帯域モデルでは、帯域制限機能(Bandwidth Limit)を適切に使い、
必要に応じて20MHzリミットなどを活用すると波形が安定します。

また、サンプリングレートも重要です。
帯域が広くても、サンプリングが不足していると波形が粗く表示されます。
一般的には、観測したい信号の周波数の10倍以上のサンプリングレートが望まれます。


OWONオシロスコープで学ぶ帯域と時間の関係

OWONのデジタル・オシロスコープは、帯域幅・サンプリング性能・波形更新レートのバランスに優れ、
立ち上がり時間の測定を含む高速波形解析にも適しています。
また、アベレージ機能や帯域制限を組み合わせることで、
ノイズを抑えながら信号の応答特性を正確に把握できます。

教育・研究・設計の各現場で、帯域と時間応答の関係を理解する教材としても有効です。
FFT解析やトランジェント試験とあわせて学ぶことで、電子信号の動きをより深く理解できます。


まとめ ― 立ち上がり時間は帯域で決まる

立ち上がり時間を正確に測るには、十分な帯域幅を持つオシロスコープが必要です。
帯域が狭いと信号の速さを正しく反映できず、波形が鈍って見えます。
逆に帯域を広げれば正確な応答が見えるものの、ノイズも増えるため、
目的に応じた最適なバランスを取ることが大切です。

OWONのオシロスコープは、帯域・時間応答・ノイズ特性の理解を深めるための信頼できるツールです。
正しい帯域選択と測定手法を身につけることで、電子回路の本当の動きを“見える化”することができます。