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通信信号のトラブル解析 ― I²C・UART・SPIを波形で見る
- 2025/10/7 -

通信信号のトラブル解析 ― I²C・UART・SPIを波形で見る

電子機器の多くは、マイコンやセンサ、メモリなど複数のデバイスが連携して動作しています。その間をつなぐのが「シリアル通信」です。代表的な通信方式として、I²C(アイ・スクエアド・シー)、UART(ユニバーサル非同期受送信)、SPI(シリアル・ペリフェラル・インターフェース)などがあります。これらの通信はシンプルに見えますが、実際の開発や評価の現場では、通信エラーやノイズ干渉など、目に見えない問題が起こることがあります。オシロスコープを使えば、その信号の流れを「波形」として可視化し、問題の原因を正確に突き止めることができます。

まず、通信トラブルの典型例として挙げられるのが、「データが送信されているのに受信側で認識されない」「通信が途中で止まる」「ノイズで誤ったデータが入る」といった現象です。これらの問題は、信号のタイミングやレベル、波形品質に起因していることが多く、ロジックアナライザだけでは見落とされる場合があります。オシロスコープはアナログ波形を直接観測できるため、デジタル通信の内部で何が起きているかを“目で見る”ことができます。

UART通信の例を見てみましょう。UARTは送受信線を1本ずつ使用し、スタートビット、データビット、ストップビットで構成されます。オシロスコープで観測すると、矩形波のようなデジタルパルス列として表示されます。通信が不安定な場合、波形の立ち上がり・立ち下がりが鈍かったり、ノイズによるスパイクが見えることがあります。電圧レベルが規定範囲を外れると、受信側で誤判定が起きることもあります。波形を観測することで、信号品質の問題を直接確認できます。

I²C通信では、SDA(データ)とSCL(クロック)の2本の線で通信を行います。I²Cの特長はオープンドレイン構造にあり、プルアップ抵抗によって信号が保持されます。オシロスコープで観測すると、クロックの立ち上がりが遅い場合やノイズで高レベルが揺らぐ場合があります。これはプルアップ抵抗の値が大きすぎたり、ライン容量が増えている可能性があります。通信が途中で停止する「バスハングアップ」も、波形でクロック停止やデータ保持状態が確認できれば、原因特定が容易になります。

SPI通信は、SCLK(クロック)、MOSI(マスタ出力・スレーブ入力)、MISO(マスタ入力・スレーブ出力)、CS(チップセレクト)の4本で構成されます。SPIは高速通信が可能な反面、信号のタイミングずれや位相設定ミスでデータがずれるトラブルが起こりやすい方式です。オシロスコープでは、クロックとデータ信号を同時に観測することで、タイミング関係を正確に確認できます。クロック立ち上がりでサンプリングするか、立ち下がりで行うか(CPOL/CPHA設定)の違いによって、1ビット分のずれが発生することもあります。

これらの通信波形を解析するうえで、トリガ機能の活用が鍵となります。オシロスコープのシリアルトリガ機能を使えば、特定のアドレスやデータパターンが送信された瞬間を自動で検出できます。これにより、通信の特定区間を確実にキャプチャでき、異常発生時の前後関係を把握できます。例えば、I²Cのアドレス送信時にノイズが混入していないか、UARTでビット落ちが起きていないかを詳細に確認することが可能です。

波形の観察ポイントとしては、以下の点を重視します。
・信号の立ち上がり/立ち下がりの速度
・電圧レベルが規格範囲内に収まっているか
・クロックとデータのタイミング関係
・ノイズやリンギングの有無
・信号線の反射やクロストークの影響

通信エラーの多くは、回路設計や配線条件に起因しています。配線が長すぎたり、グラウンドが共有されていないと、信号反射や電位差によって波形が歪みます。オシロスコープで波形を観測しながら、ケーブル長、グラウンドの取り回し、シールドの有無を確認することで、設計改善の手がかりが得られます。

安全面でもいくつかの注意が必要です。通信回路の中には5V系と3.3V系が混在する場合があります。異なる電圧系を直接接続すると回路破損の危険があるため、レベル変換器や絶縁プローブを使って安全に測定します。また、複数の装置を同一アースで接続すると、アースループが発生してノイズの原因になることがあります。オシロスコープと測定対象の電位関係を事前に確認し、絶縁を確保することが大切です。

通信信号のトラブル解析において、オシロスコープは単なる測定器ではなく「動作の可視化ツール」です。波形を通じて通信の実態を理解することで、回路の不具合を理論的に解決できます。さらに、学生実験や教育の場では、デジタル通信の仕組みを体感的に学べる教材としても効果的です。I²C、UART、SPIといった通信方式は、電子工学の基礎を支える重要なテーマであり、その波形を自分の目で確認することが、理解への最短ルートとなります。

オシロスコープを使った通信解析は、デバッグの効率を大幅に向上させます。適切なトリガ設定と安全な測定環境を整えることで、信頼性の高い通信を設計・評価できるようになります。見えないデータの流れを“見える波形”として捉えることが、エンジニアリングの第一歩です。

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