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現場で役立つオシロスコープ解析術 ― トリガ・FFT・マスカー活用の実例
- 2025/10/13 -

現場で役立つオシロスコープ解析術 ― トリガ・FFT・マスカー活用の実例

オシロスコープは、電子回路の状態を「波形」として目で確認できる最も基本的な計測器です。
しかし、現代の高速回路や複雑な信号では、単に波形を表示するだけでは原因特定が難しくなっています。
そんなときに役立つのが、トリガ機能・FFT解析・マスクテストといった“波形解析ツール”です。
これらを使いこなすことで、ノイズや異常動作の検出、製品品質の確認まで、現場の効率を大きく高めることができます。

本稿では、オシロスコープをより深く活用するための実践的な解析術を紹介します。


■ トリガ設定 ― 波形の「決定的瞬間」を捉える

オシロスコープのトリガ機能は、波形を安定して表示させるための基本です。
通常のエッジトリガでは、信号の立ち上がりや立ち下がりのタイミングを基準に観測しますが、異常波形の解析には高度なトリガ設定が有効です。

代表的なトリガ例は以下の通りです。

パルス幅トリガ:特定の幅より短い/長いパルスを検出。スパイクノイズやグリッチ解析に有効。
ランタイムトリガ:一定電圧を超えて一定時間継続したときに発生。電源異常の検出に利用。
シリアルトリガ:I²C、SPI、UARTなど通信プロトコルの特定データやエラーを捕捉。

これらを活用すれば、偶発的な不具合や瞬間的な異常を高精度で記録できます。
特に通信機器やスイッチング電源の評価では、トリガ条件を適切に設定することで問題発生時の波形を確実に再現できます。



■ FFT解析 ― 周波数領域でノイズの正体を掴む

時間軸波形だけでは、どの周波数にノイズが含まれているかを正確に把握できません。
そこで役立つのが、FFT(高速フーリエ変換)解析です。
FFTを使えば、波形に含まれる成分を周波数軸で可視化し、ノイズの周波数特性を一目で確認できます。

たとえば、スイッチング電源回路を測定すると、スイッチング周波数(例:100kHz)とその高調波(200kHz、300kHz…)がスペクトルとして現れます。
この周波数ピークがEMI(電磁干渉)の原因となる場合、フィルタ設計やシールド対策の方向性を決める手がかりになります。

また、FFT解析を利用すれば、オーディオ回路の歪み評価や、センサー信号のノイズ帯域測定などにも応用可能です。
時間領域+周波数領域の二重分析は、今後の電子設計において欠かせないスキルです。



■ マスクテスト ― 不良波形を自動で検出する

製品評価や長時間試験では、「正常波形の中から異常を自動で検出したい」というニーズがあります。
このとき有効なのが、オシロスコープのマスクテスト機能です。

マスクテストとは、あらかじめ正常波形の形状を基準としてマスク領域(許容範囲)を設定し、
測定波形がその範囲を超えた場合に「FAIL(不合格)」を表示する機能です。

たとえば、電源出力の安定性試験では、長時間モニタリング中に一瞬の電圧ドロップが起きてもマスク判定ですぐに検出できます。
自動カウント機能を使えば、異常発生回数や発生率も記録でき、品質評価に役立ちます。

マスクテストは、教育現場でも学生実験の評価ツールとして有効です。
「波形が正常範囲に収まっているか」を視覚的に判断できるため、基礎学習の理解促進にもつながります。



■ 自動測定と統計解析 ― 品質管理の定量化

オシロスコープの自動測定機能を使えば、周期、立ち上がり時間、最大値、平均値などをリアルタイムで数値化できます。
さらに統計機能を利用すると、測定値のばらつきやトレンドを表示でき、製品の安定性を定量的に評価できます。

たとえば、同一電源を1時間観測し、出力電圧の平均・最大・最小・標準偏差を記録すると、
設計上の余裕度(マージン)を定量的に把握できます。

このように、オシロスコープを「定量評価ツール」として使うことで、
設計から量産検査、品質保証まで一貫したデータ管理が可能になります。



■ 測定環境と安全のポイント

高感度な解析を行うほど、ノイズや接地の影響を受けやすくなります。
・グラウンド線を短くする
・プローブループを作らない
・アースは一点接地にする
といった基本を守ることで、波形の再現性が向上します。

また、測定対象が高電圧・高周波の場合は、必ず差動プローブまたは光アイソレーションプローブを使用します。
安全を確保したうえで解析を行うことが、正確な結果につながります。



■ まとめ

トリガ・FFT・マスクテストは、現場で最も実用的な解析機能です。
・トリガで“瞬間”を捉え、
・FFTで“原因”を探り、
・マスクで“再発”を防ぐ。

この3つを組み合わせることで、故障解析から品質検証までを効率的に行えます。
オシロスコープを「見るだけの機器」から「考えるためのツール」に進化させること――
それが、今後の計測現場に求められる新しいスキルです。

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