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測定トラブルの原因と対策 ― 正しいプロービングでノイズを防ぐ
- 2025/10/7 -

測定トラブルの原因と対策 ― 正しいプロービングでノイズを防ぐ

電子回路を評価する際、オシロスコープで波形を観測してみると、「理論通りの波形が出ない」「ノイズが多い」「波形が歪む」といった経験をされた方も多いでしょう。実はその多くは、回路自体の問題ではなく、“測定方法”に起因するトラブルです。特にプローブの接続やアース処理の仕方によって、測定結果は大きく変化します。本稿では、現場でよく起こる測定トラブルの原因と、その防止のための正しいプロービング方法を解説します。


■ ノイズの主な発生要因

オシロスコープで観測されるノイズの多くは、外部からの干渉や配線経路による影響で発生します。代表的な原因として次の3点が挙げられます。

・アース(グラウンド)線の取り回しが長い
 プローブのグラウンド線が長いと、ループアンテナのように電磁ノイズを拾いやすくなります。その結果、波形に不要な高周波成分が重なり、正しい信号が見えなくなります。

・プローブの接続点が適切でない
 信号ラインの途中や不安定な接点にプローブを接続すると、電位差が生じて波形が歪みます。特に高速信号では、測定点の位置がわずかにずれるだけでも波形が大きく変わります。

・接地環境の違いによるグラウンドループ
 複数の機器を接続している場合、それぞれのアース電位に微小な差があると、ループ状の電流が流れてノイズ源になります。

これらは、計測器や回路そのものが悪いわけではなく、接続方法の工夫で大きく改善できる問題です。


■ 正しいプロービングの基本

プローブを接続する際は、「最短・最小・安定」を意識することが基本です。

・グラウンドはできるだけ短く取る
 標準のワニ口クリップ型グラウンド線ではなく、スプリングタイプの短いグラウンドアダプタを使用すると、高周波ノイズを大幅に低減できます。数cmの差でも波形品質が大きく変わることがあります。

・測定点は信号の基準点に近い箇所へ
 信号ラインの先端ではなく、基板上の測定パッドやテストポイントなど、電気的に安定した場所を選びます。

・配線を束ねず、並列ルートを避ける
 プローブや電源ケーブルをまとめて配線すると、相互に誘導ノイズを拾いやすくなります。信号線と電源線は分離して配置しましょう。

また、電流を測定する場合は、シャント抵抗を介して電圧として測定する方法が一般的です。電流プローブを使用する場合は、ループ径を最小限にし、ケーブルを一度だけ通すようにします。複数回巻き付けると誤差や飽和の原因になります。


■ 高速信号やスイッチング波形の注意点

スイッチング電源や通信回路など、高速な立ち上がり信号を測定する場合は、プロービングの影響が特に顕著になります。プローブの入力容量が大きいと、測定回路に負荷を与え、波形が鈍化してしまいます。これを防ぐには、アクティブプローブまたは高インピーダンス差動プローブを使用します。アクティブプローブは入力容量が小さいため、高周波信号を正確に再現できます。

さらに、電源回路を観測する場合は、信号ラインが高電圧やフローティング(浮遊電位)状態になっていることが多いため、光アイソレーションプローブの利用が安全です。これにより、アースショートや感電事故を防ぎながら正確な波形を取得できます。


■ トリガ設定とノイズ除去の工夫

ノイズを含む波形を安定して観測するには、トリガ設定の工夫が効果的です。ノイズが多い場合、トリガレベルを信号の中間ではなく、立ち上がりや立ち下がりの明確な位置に設定すると、波形が安定します。また、ノイズでトリガが暴れる場合は、トリガモードを「ノイズリジェクト」や「エッジ+ホールドオフ」に設定すると良いでしょう。

FFT解析機能を併用すると、ノイズがどの周波数成分で強く出ているかを特定できます。例えば、スイッチング電源では、100kHz前後のピークが見られることが多く、これが電磁干渉(EMI)の原因になることがあります。周波数分布を確認して、ノイズ抑制部品(フェライトビーズ・チョークコイル)の効果を評価するのも有効です。


■ 安全と再現性を両立する測定環境

測定トラブルを防ぐうえで、安全な環境を整えることも欠かせません。電源ラインの接続やプローブの位置を変える際は、必ず電源を切ってから操作します。複数の装置を同一アースに接続する際は、アースループができないよう一点接地を意識しましょう。

また、測定結果の再現性を高めるには、配線の長さ・位置・環境ノイズ条件を一定に保つことが大切です。特に教育や研究の場では、学生ごとに接続方法が異なると、結果がばらつく原因になります。配線写真を撮って共有する、測定条件をノートに残すといった工夫で、実験の品質を向上できます。


■ まとめ

測定の精度は、計測器そのものよりも「正しい接続」に左右されます。プローブの接続位置が数cm違うだけで、ノイズ量や波形形状が大きく変わることも珍しくありません。正しいプロービングは、安定したデータを得るだけでなく、機器を長く安全に使用するためにも欠かせない基本技術です。

オシロスコープを使いこなす第一歩は、波形を見る前に“どう測るか”を考えること。
静かな波形は、正しい接続から生まれます。

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