English  中文站
スイッチング電源の波形観測 ― 効率と発熱を両立する設計評価
- 2025/10/7 -

スイッチング電源の波形観測 ― 効率と発熱を両立する設計評価

電子機器の小型化と高効率化が進む中で、スイッチング電源(Switching Power Supply)は欠かせない存在となっています。しかし、その高速スイッチング動作に伴うノイズやリップル、発熱の管理は、設計上の大きな課題でもあります。オシロスコープを使って正確に波形を観測することは、電源の安定性と信頼性を確認するうえで非常に重要です。本稿では、スイッチング電源の基本動作と、波形観測による効率・発熱の評価方法を解説します。

■ スイッチング電源とは

スイッチング電源は、トランジスタなどのスイッチング素子を高速にオン/オフして、入力電圧を変換する方式の電源です。代表的な方式には、降圧(Buck)、昇圧(Boost)、昇降圧(Buck-Boost)などがあります。これらは、スイッチング周期・デューティ比・インダクタ電流によって出力電圧が決まる仕組みになっています。効率が高く、小型化しやすい反面、スイッチング動作により高周波ノイズやリップル電圧が発生します。設計段階では、これらの特性を波形で確認しながら最適化していく必要があります。

■ 観測すべき主要波形

スイッチング電源の評価では、主に次の3種類の波形を観測します。

  1. スイッチングノード(SWノード)波形
     MOSFETのドレイン端子付近など、高速で電圧が変化する部分です。波形の立ち上がり・立ち下がりが急峻であり、過渡応答やノイズの発生源となります。プローブのグラウンド線を最短にして観測することが重要です。

  2. 出力電圧波形(Vout)
     リップル(周期的な小さな電圧変動)を観測します。出力が安定しているか、ノイズが規定値内に収まっているかを確認します。ACカップリング設定を使うと、リップル成分だけを拡大して観測できます。

  3. インダクタ電流波形(IL)
     インダクタに流れる電流は、スイッチング周期に合わせて三角波状に変化します。波形が滑らかであるほど効率が高く、過大なピーク電流は損失や発熱の原因になります。

これらを同時に観測することで、スイッチング動作の安定性や制御ループの健全性を評価できます。

■ リップルとノイズの解析

スイッチング電源の出力には、理想的な直流電圧に加えて小さな交流成分(リップル)が重なります。このリップルは出力コンデンサの性能やレイアウトによって変動します。リップル電圧が大きい場合、他の回路にノイズが伝わり、動作不安定の原因になります。オシロスコープで観測する際は、ACカップリングモードを使用し、帯域制限(20MHz Bandwidth Limit)を有効にすると、高周波ノイズを抑えてリップル成分を正確に確認できます。

また、FFT解析を用いることで、リップルの周波数成分を特定できます。基本スイッチング周波数のほか、その2倍・3倍の高調波が現れる場合は、スイッチング素子の立ち上がり特性やスナバ回路の設計を見直す必要があります。FFTによるスペクトル解析は、ノイズ対策の方向性を定量的に判断できる有効な手法です。

■ 効率と発熱の評価

スイッチング電源の効率を測定するには、入力電力と出力電力をそれぞれ計測する必要があります。オシロスコープを使って電圧と電流の波形を同時に観測し、乗算演算(P = V × I)で瞬時電力を求めることで、平均効率を算出できます。特に、軽負荷時や高負荷時での効率変動を確認することは、電源設計の最適化に欠かせません。

発熱評価も同様に重要です。スイッチング損失や導通損失が増えると、素子やインダクタが過熱します。オシロスコープで波形を観測しながら、同時にサーモグラフィーなどで温度上昇を確認すると、損失発生箇所を特定できます。波形上でオン・オフの遅れや重なりが見える場合は、ゲートドライブ設計の最適化が必要です。

■ 測定時の安全と注意点

スイッチング電源の観測では、測定の安全確保が最優先です。SWノードや一次側回路は高電圧・高dv/dt(電圧変化率)を伴うため、一般的なプローブでは危険です。感電防止と機器保護のために、差動プローブ光アイソレーションプローブを使用します。これにより、アースショートや絶縁破壊を防ぎながら、正確な波形を取得できます。

また、スイッチング電源では、アースループの防止も重要です。測定機器を同一アースに接続し、グラウンドが複数経路で重複しないように注意します。高周波ノイズを拾わないためには、プローブ配線をできるだけ短く保ち、接地を一点化することが推奨されます。

■ 波形解析から見える改善ポイント

スイッチング電源の波形を詳細に観測すると、設計の改善につながる多くの情報が得られます。たとえば、スイッチング立ち上がりにオーバーシュートが見られる場合は、ゲート抵抗値やスナバ回路の見直しで改善できます。リップル電圧が過大な場合は、出力コンデンサのESR値や配置距離を最適化することで抑制可能です。

波形を「見る」だけでなく、「なぜその形になっているか」を考察することが、真の電源設計力につながります。オシロスコープは、単なる測定器ではなく、電源の“動きを理解するための顕微鏡”といえるでしょう。

■ まとめ

スイッチング電源の波形観測は、効率・発熱・ノイズの3つをバランスよく設計するための基本です。
リップルや過渡応答を正確に捉えることで、信頼性の高い電源を実現できます。
正しいプロービング、安全な測定、そして波形から読み取る洞察力――
これらを身につけることが、次世代の電源開発に欠かせないスキルです。

もっと用語集