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スペクトラムアナライザの基礎知識:オシロスコープとの違いとは?
- 2025/7/6 -

スペクトラムアナライザとオシロスコープは何が違う?

電気信号を観測する計測器といえば、オシロスコープがよく知られていますが、もう一つ重要なツールとして「スペクトラムアナライザ(spectrum analyzer)」があります。これらは似たように見えて、波形を観測する「軸(視点)」が異なることが最大の違いです。

オシロスコープは**時間軸(Time Domain)で信号を見る装置で、信号の波形や周期、立ち上がり時間、ジッタなどの確認に適しています。一方、スペクトラムアナライザは周波数軸(Frequency Domain)**で信号を観察する装置で、信号に含まれる周波数成分やノイズ、干渉信号の検出に使われます。


それぞれの表示の違いをイメージで理解しよう

・オシロスコープ:横軸が「時間」、縦軸が「電圧」
→ 繰り返しの波形やパルスのタイミングがわかる

・スペクトラムアナライザ:横軸が「周波数」、縦軸が「電力(dBmなど)」
→ どの周波数にどのくらいの信号が含まれているかがわかる

たとえば、1MHzのサイン波を観測した場合、オシロスコープでは滑らかな波形が時間軸で表示されます。一方、スペクトラムアナライザでは「1MHzのピーク」が周波数軸上に表示されます。

ノイズが多い信号や、複数の周波数が重なった複雑な信号を解析する際は、スペクトラムアナライザのほうが本質をとらえやすいのです。


それぞれの代表的な用途

【オシロスコープの主な用途】
・パルス波形の確認
・マイコン信号のタイミング測定
・アナログ信号の立ち上がり時間、遅延時間の測定
・電源の立ち下がり波形の監視
・デジタル通信のトリガ検出(UART、SPIなど)

【スペクトラムアナライザの主な用途】
・RF信号の周波数確認(例:2.4GHz帯の通信)
・EMC測定やノイズ源の特定
・占有帯域(OBW)の測定
・隣接チャネル漏洩電力(ACP)の測定
・BluetoothやWi-Fiの出力解析
・アンテナの放射特性測定

用途が異なるため、「どちらが上位機器か」という話ではなく、どちらも必要に応じて使い分ける道具なのです。


スペクトラムアナライザを選ぶときに注目すべき仕様

スペクトラムアナライザは、オシロスコープよりも高価になることが多く、選定にあたっては以下のスペックに注目しましょう。

周波数範囲(例:9kHz〜3.6GHz)
→ 測定対象となる信号の上限周波数をカバーできる必要あり

分解能帯域幅(RBW)
→ 狭い周波数差を検出できるほど、分解能が高くなる

表示平均ノイズレベル(DANL)
→ 測定対象の信号がどの程度小さいレベルまで見えるか(例:−150dBm)

トリガ・マーカ・トレース機能
→ 瞬間的なイベントやピークホールドに対応できるか

EMI/EMC対応(プリスキャン)
→ 電波暗室を使わなくても事前にノイズを確認できる機能


オシロスコープでもFFT解析はできるが…?

最近のデジタルオシロスコープには「FFT機能」が搭載されていることも多く、簡易的な周波数解析が可能です。しかし、FFTはあくまで補助的な周波数解析機能であり、以下のような制限があります。

・周波数分解能が粗い(例:RBWが10kHz〜以上)
・ノイズフロア(DANL)が高く、微弱信号の観測が難しい
・周波数レンジがオシロスコープの帯域に制限される(例:100MHz未満)

そのため、高精度な周波数測定やノイズ解析には、専用のスペクトラムアナライザが必要になります。


両方の計測器を活用することで、信号の全体像を把握できる

オシロスコープは「時間的な動き」を見るのに適しており、回路が設計どおりに動いているか、瞬間的に異常が発生していないかを確認するのに役立ちます。

一方、スペクトラムアナライザは「周波数的な中身」を見るのに適しており、ノイズや干渉、不要放射や通信信号の漏洩などの問題を見つけるのに適しています。

したがって、以下のように使い分けると効率的です。

・時間の挙動を確認したい → オシロスコープ
・スペクトル構成を分析したい → スペクトラムアナライザ

どちらか一方だけでは見逃してしまう信号の異常を、両者を組み合わせることで立体的に把握することができます。


まとめ:スペクトラムアナライザとオシロスコープの違いを理解しよう

両者の違いを一言でまとめると、

  • オシロスコープ=「時間」を見る

  • スペクトラムアナライザ=「周波数」を見る

という視点の違いです。どちらも電子回路設計・無線開発・ノイズ対策の現場で欠かせない計測器であり、目的に応じて選び、併用することが理想です。

もしあなたの業務や研究で「周波数が関係する現象」が関係している場合は、ぜひスペクトラムアナライザの導入を検討してみてください。