EMI対策に必須!スペクトラムアナライザによるノイズ測定入門
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EMIノイズとは?なぜ対策が必要なのか
EMI(Electromagnetic Interference:電磁妨害)とは、電子機器が発する不要な電磁波やノイズが他の電子機器に影響を与える現象のことです。たとえば、パソコンのUSBから発生したノイズがWi-Fi通信を妨害したり、電源回路から出たスパイクが近くのセンサを誤動作させたりといった問題が発生します。
電子機器の製品化には、EMC(Electromagnetic Compatibility)規格への適合が求められ、不要輻射(放射EMI)や伝導ノイズ(伝導EMI)の基準をクリアする必要があります。そのため、開発段階でのEMI対策・ノイズ測定が不可欠です。
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スペクトラムアナライザはノイズ測定の基本ツール
EMIノイズの測定には、オシロスコープよりもスペクトラムアナライザ(spectrum analyzer)が向いています。なぜなら、スペクトラムアナライザは信号の周波数ごとのレベルを表示する測定器で、どの帯域にどの程度のノイズが出ているかを視覚的に把握できるからです。
たとえば、9kHz~30MHzまでの伝導ノイズ、30MHz~1GHz以上の放射ノイズといったEMC規格の評価帯域をスペクトラムアナライザで測定することで、ノイズのピークや周波数帯を特定し、効率的に対策が行えます。
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EMI測定に使われるスペクトラムアナライザの特徴
EMIノイズ測定に適したスペアナには、以下のような機能が必要です。
・広帯域周波数範囲(例:9kHz~3.6GHz以上)
・低ノイズフロア(DANL:−140dBm以下が望ましい)
・RBW(分解能帯域幅)10Hz~の設定が可能
・EMIプリスキャンモード搭載
・平均(AVG)・ピークホールド(MAX HOLD)機能
・マーカによる周波数・振幅の読み取り
・ノイズ測定用の測定機能(OBW、チャネルパワー、マーカノイズ)
OWON XSA800シリーズなどのエントリーモデルでも、これらの基本機能を搭載した機種があります。
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EMIノイズ測定のステップガイド(プリスキャン)
本格的なEMC試験は電波暗室や専用の測定サイトが必要ですが、開発段階では**プリスキャン(事前確認)**によってノイズの有無や傾向を把握できます。以下が一般的なステップです。
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ノイズ測定対象の準備
・動作状態の試験機を用意し、ノイズ源となりうる箇所(電源線、クロック、インターフェース)を確認 -
測定範囲・スパン設定
・例:Start = 9kHz、Stop = 1GHz
・スパンが広いときは分割して観測 -
RBW/VBWの調整
・EMC規格に準じて10kHz、100kHzなどを選択
・詳細を見たい場合はRBWを小さく -
MAX HOLDを使ってピーク捕捉
・時間変動のあるノイズを見逃さないよう、一定時間記録する -
マーカでピークを確認
・ピーク周波数とレベルを読み取り、基準値と比較 -
原因追跡のために探査プローブ使用
・近接アンテナ(Hフィールドプローブ)を使ってノイズ源を局所的に探す
このように、EMIプリスキャンを通じて事前にノイズ傾向を把握しておくと、試験所での測定にかかるコストや時間を大きく削減できます。
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よくあるEMIノイズの原因と対策例
【クロック信号のスパイク】
→ 基板パターンのリターンパス不良、スルーホールの配置ミス
→ 対策:グランド整備、ディファレンシャルペアの設計見直し
【スイッチング電源の高調波】
→ 20kHz〜1MHz付近で多く観測される
→ 対策:EMIフィルタの追加、FETゲート駆動のスローダウン
【USB・HDMI・LANインターフェース】
→ ケーブルから放射されやすく、30MHz〜300MHzにピーク
→ 対策:フェライトビーズやシャシーグランドの強化
これらの現象は、スペクトラムアナライザで**「帯域ごとのピークを観察する」**ことで明確に可視化でき、ピンポイントな対策が可能になります。
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スペクトラムアナライザ選定時のチェックポイント
EMI対策を目的としたスペクトラムアナライザ選定では、以下の点に注意しましょう。
・9kHzから始まる周波数範囲:EMC測定の下限に対応
・RBW/VTBWが柔軟に調整可能:10Hz単位での設定が可能か
・マーカ機能が使いやすい:ピーク検索、ノイズフロア測定対応
・外部アンテナやプローブの接続性:探査プローブが使えるか
・データ保存とレポート作成:USB保存やCSV出力対応か
・EMI測定モード搭載の有無:OBW、ACP、チャネルパワー測定など
これらの条件を満たすモデルを選ぶことで、ノイズ解析の効率が大きく向上します。
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EMI対策を成功させるには、可視化が鍵
EMIノイズは目に見えないだけに、測定・可視化して初めて「存在」に気づくというのが現実です。開発者の勘や経験だけでは限界があり、スペクトラムアナライザを活用して数値とグラフで根拠ある対策を取ることが重要です。
特に、製品の量産直前でノイズ試験に落ちてしまうと、部品変更や基板再設計といった大きなコストが発生します。これを防ぐには、開発初期からのプリスキャンと段階的なEMIチェックがカギとなります。
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まとめ:EMI測定にはスペクトラムアナライザの導入が不可欠
EMIノイズは現代の電子機器において避けては通れない課題であり、スペクトラムアナライザによるノイズ測定と可視化はその第一歩です。周波数ごとのノイズの見える化、ノイズ源の特定、対策後の効果確認など、あらゆる場面で活躍します。
初めてEMI対策に取り組む方でも、EMIプリスキャン機能付きのスペクトラムアナライザを使えば、測定のハードルは大きく下がります。ノイズの原因を科学的に突き止め、効率よく製品の信頼性を高めましょう。
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