スペクトラムアナライザとは?仕組み・使い方・活用例をわかりやすく解説
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スペクトラムアナライザとは何か?
スペクトラムアナライザ(spectrum analyzer)は、電気信号を周波数成分ごとに分解して可視化するための測定器です。オシロスコープが時間軸での波形を表示するのに対して、スペクトラムアナライザは周波数軸で信号のエネルギー(レベル)を表示します。
たとえば、ある信号が「どの周波数に」「どれだけの強さで」含まれているかを正確に観測できるため、無線通信・高周波回路・アンテナ測定・EMC評価など、広範な分野で利用されています。
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スペクトラムアナライザの基本的な仕組み
スペクトラムアナライザの内部では、入力信号が以下のようなステップを経て解析されます。
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入力信号をローパスまたはバンドパスでフィルタリング
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局部発振器(LO)で周波数を変換(ミキシング)
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希望する周波数成分だけを選び、増幅または検波
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表示部にて、横軸=周波数、縦軸=振幅で描画
これにより、信号の周波数ごとのレベル分布がグラフとして視覚化されます。デジタル処理による高速スペクトラムアナライザでは、FFT(高速フーリエ変換)を活用して高速・高分解能な分析が可能です。
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主なスペック項目とその意味
スペクトラムアナライザを理解するうえで重要な仕様項目を以下に紹介します。
・周波数レンジ:測定可能な最小・最大の周波数範囲。例:9kHz〜3.6GHzなど
・分解能帯域幅(RBW):どのくらい細かい周波数間隔で分解できるか(10Hz〜3MHzなど)
・表示平均ノイズレベル(DANL):何も信号がない時に表示されるノイズフロア(例:−150dBm)
・スパン:横軸(周波数軸)の表示幅。狭くすることで詳細に観測可能
・トレースモード:リアルタイム/平均/最大保持(Max Hold)など
機種によっては、プリアンプやトリガ入力、データ出力機能も備えています。
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スペクトラムアナライザの使い方
基本的な使用手順は以下の通りです。
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測定対象の信号をRF入力端子に接続(SMAなど)
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周波数範囲(Start/StopまたはCenter/Span)を設定
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RBW・VBWを調整して解析精度と表示応答を最適化
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トレースモードを選択(MAX HOLDでピーク検出など)
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マーカを使ってピーク値や帯域幅を測定
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必要に応じて保存、レポート作成、外部出力
多くの製品では、EMI測定や占有帯域幅(OBW)、隣接チャネル漏洩(ACP)などの測定モードがプリセットで用意されています。
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FFTとの違いと連携
FFT解析はオシロスコープでも可能ですが、あくまで時間波形を簡易的に周波数変換する手段です。一方、スペクトラムアナライザは高い周波数分解能とダイナミックレンジを持ち、RF信号の精密な測定に特化しています。
一部のデジタルオシロスコープは「FFTモード」で簡易スペクトラム解析ができますが、狭帯域・高ダイナミックレンジな測定には専用のスペクトラムアナライザが必要です。
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主な活用分野と事例
スペクトラムアナライザは以下のような分野で広く利用されています。
・無線通信機器の開発(Bluetooth、Wi-Fi、LTEなど)
・アンテナ設計・整合評価(SWRや利得の確認)
・EMC測定(ノイズ発生源の同定、EMIプリスキャン)
・電源ノイズ評価(スイッチング電源などのリップル)
・製造ラインでの電波出力検査
・違法無線の探知や電波干渉対策
たとえば、Bluetooth送信機の設計時には、発振周波数が規格内に収まっているか、隣接チャネルへの漏洩がないかなどを確認します。スペクトラムアナライザを使えば、これらをグラフで一目で把握できます。
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スペクトラムアナライザ選定のポイント
スペクトラムアナライザを選ぶ際は、以下のポイントを重視するのが一般的です。
・使用する信号の最大周波数(2.4GHz以上ならWi-Fi対応)
・RBWやDANLなどの性能要件
・ポータブル性(据え置き型 or ハンドヘルド)
・トリガ機能やデータ保存形式の有無
・FFT搭載の有無、トレース数、測定モード
予算に余裕があれば、EMIプリスキャン対応モデルを選んでおくと、EMC試験前のチェックに役立ちます。
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OWONやRIGOLなどの低価格モデルの選択肢
近年では、OWONやRIGOL、Siglentなどのメーカーが、比較的手頃な価格帯で高性能なスペクトラムアナライザを提供しています。例えば、OWONの「XSA800シリーズ」は最大7.5GHzまで対応し、EMIプリテストモードやUSB保存、LAN接続にも対応しており、コストパフォーマンスに優れています。
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まとめ:スペクトラムアナライザはRF解析の必須ツール
スペクトラムアナライザは、電気・電子エンジニアにとって周波数領域の見える化を可能にする強力なツールです。時間波形だけでは分からない問題の本質を捉えることができ、設計の精度向上、品質の安定、ノイズ対策に大きく貢献します。
初めて導入する方でも、基本操作を習得すれば十分に活用できます。自社開発・品質管理・EMC対策など、さまざまな場面で活躍すること間違いありません。
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