測定現場で役立つスペアナの便利機能10選【マーカ・トレース・トリガ】
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スペクトラムアナライザの「隠れた力」を知っていますか?
スペクトラムアナライザ(スペアナ)は、電気信号を周波数成分で可視化できる強力なツールです。しかし、ただ波形を見るだけではもったいないということをご存じでしょうか?
多くのスペアナには、測定効率や精度を大幅に高めてくれる便利機能が多数搭載されています。
本記事では、現場で本当に使えるスペアナの便利機能を10個厳選して紹介します。初めてスペアナを使う方はもちろん、既に使っている方でも知らなかった活用法が見つかるかもしれません。
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1.マーカ機能(ピークマーカ・デルタマーカ)
スペアナの中でも最も基本かつ強力な機能が「マーカ」です。表示されたスペクトル上にカーソル(マーカ)を配置し、特定の周波数や振幅(dBm)を読み取ることができます。
【主な種類】
ピークマーカ:最大値の周波数とレベルを自動表示
デルタマーカ:2点間の周波数差・振幅差を表示
ノイズマーカ:ノイズフロアを自動で測定
トラブル解析時に「どの周波数にピークが出ているか」「信号間の間隔は何Hzか」を素早く調べるのに非常に便利です。
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2.トレースモード(Max Hold/Average)
トレースモードとは、スペクトル波形の表示方式を選ぶ機能です。代表的なものは以下のとおりです。
Clear Write:毎回の測定結果を上書き表示
Max Hold:これまでの最大値を保持し続ける
Min Hold:最小値を保持
Average:過去の波形を平均して滑らかに表示
瞬間的なピーク信号を見逃したくないときはMax Hold、ノイズのばらつきを抑えたいときはAverageが有効です。
特にBluetoothやWi-Fiのような間欠送信信号の観測にはMax Holdが効果的です。
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3.トリガ機能(外部・ビデオ・レベル)
トリガ機能は、特定のタイミングや条件で波形取得を開始するための機能です。トリガ設定によって、変動の激しい信号でも安定して観測することができます。
【主な種類】
外部トリガ:外部信号入力に同期して測定をスタート
ビデオトリガ:信号レベルが一定値を超えた瞬間にトリガ
RFレベルトリガ:無線信号の変動を捉える
時間制御が必要な測定や、突発的なスパイク検出に威力を発揮します。
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4.チャネルパワー測定
指定した周波数帯域内の信号全体の平均電力を測定する機能です。無線通信機器の送信出力を測る際に非常に役立ちます。
中心周波数と帯域幅を設定するだけで、dBm単位の出力が自動で表示されます。パワーアンプや通信モジュールの検証に必須の機能です。
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5.占有帯域幅(OBW)測定
OBW(Occupied Bandwidth)機能を使えば、信号の99%のパワーを占める帯域幅を自動で算出できます。通信規格における帯域制限の確認や、信号の広がり具合を可視化するのに便利です。
信号がどのくらい帯域を占有しているかを数値で把握することで、設計の最適化や規格適合性の確認に役立ちます。
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6.隣接チャネル漏洩電力(ACP)測定
ACP(Adjacent Channel Power)は、隣接する周波数帯に漏れ出した信号成分のレベルを測定する機能です。送信信号が他チャネルへ干渉していないかを定量的にチェックできます。
通信規格適合性やPA(パワーアンプ)の線形性確認に利用され、機器の品質管理でも重要な役割を果たします。
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7.マーカノイズ(Noise Marker)
マーカノイズ機能は、指定したRBWでのノイズ密度(dBm/Hz)を測定するツールです。ノイズフロアの確認や微小信号の検出に便利で、EMI対策やノイズ源特定の場面で活用されます。
ノイズレベルが規定値以下であることを確認したいときに有効です。
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8.ログスケール/リニアスケール切り替え
縦軸(振幅軸)のスケールを「対数(dB)」と「線形(mVやV)」で切り替えることができます。通常はdB表示で使用されますが、信号の振幅成分をそのまま比較したいときはリニア表示が便利です。
信号強度の変化を直感的に理解したいときや、オーディオ信号などのアナログ成分解析時に有効です。
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9.デュアルトレース表示
スペクトラムアナライザによっては、2本のトレース(波形)を同時に表示して比較できる機能が搭載されています。
トレースA:現在の測定波形
トレースB:過去の保存波形またはMax Hold波形
この機能により、ビフォー・アフターの測定結果を視覚的に比較することが可能です。ノイズ対策の効果確認や、部品変更による信号特性の変化を評価するのに役立ちます。
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10.測定結果の保存と外部出力
USBポートやLAN接続を利用して、測定結果を画面キャプチャ・CSVデータ・波形ファイルとして保存できます。また、一部のモデルではSCPIコマンドによるリモート制御も可能です。
測定結果を社内報告書に添付したり、継続的なトレンド分析を行うために、データの保存と管理機能は非常に重要なポイントです。
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まとめ
スペクトラムアナライザは、単にスペクトルを「見る」だけの道具ではありません。マーカ、トレース、トリガといった多彩な機能を活用することで、測定のスピードと精度が大幅に向上します。
特に以下の3つは、初心者でもすぐに使いこなせる便利機能です。
マーカ機能で周波数とレベルを素早く把握
トレースモードで変動する信号を確実に捕捉
トリガ設定で狙ったタイミングを逃さない
さらにチャネルパワー、OBW、ACPなどの専用測定機能を使えば、通信規格の確認やノイズ対策も簡単にこなすことができます。
スペクトラムアナライザを正しく使いこなすことで、現場でのトラブル対応力や開発効率が大きく向上します。これらの便利機能を活用し、より高度な信号解析をぜひ体験してみてください。
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