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無線通信の開発におけるスペクトラムアナライザの活用法とは?
- 2025/7/6 -


無線通信の開発におけるスペクトラムアナライザの活用法とは?


無線通信開発とスペクトラムアナライザの関係

Wi-FiやBluetooth、ZigBee、LoRa、LTEなど、現代の電子機器には多数の無線通信機能が組み込まれています。これらの無線通信の開発や評価を行ううえで不可欠な計測器が、スペクトラムアナライザです。

スペクトラムアナライザは、無線信号に含まれる周波数成分とその強度をリアルタイムで周波数軸上に可視化する測定器です。送信出力が適切であるか、不要なスプリアスが出ていないか、帯域が規格内に収まっているかといった確認に使用されます。

無線通信の設計・実装・評価・量産の各フェーズで活躍するスペクトラムアナライザの使い方を、以下に詳しく解説します。


スペクトラムアナライザで確認できる無線信号の指標

無線通信開発において、スペクトラムアナライザで観測・測定される代表的な項目は以下の通りです。

キャリア周波数の正確性
送信出力レベル(dBm)
占有帯域幅(OBW)
スプリアス成分(不要輻射)
隣接チャネル漏洩電力(ACP)
周波数偏移(FM系通信)
チャネルパワー(特定帯域内の合計パワー)

これらを測定することで、無線通信の信号品質や法規制(技適・FCCなど)への適合性を確認できます。


開発初期:設計通りの送信ができているかの確認

新しい無線回路を設計した段階では、まず「ちゃんと電波が出ているか」「周波数が合っているか」を確認します。スペクトラムアナライザを使えば、送信キャリアが正しい周波数で放射されているかを一目でチェック可能です。

また、PLL(フェーズロックループ)やVCO(電圧制御発振器)の動作確認にも使われ、周波数の安定性・ジッタ・ドリフトも可視化できます。


送信出力の測定とアンテナ調整

送信出力が小さすぎると通信距離が確保できず、大きすぎると法規制違反や消費電力の無駄につながります。スペアナを使えば、出力レベル(dBm)を正確に確認でき、PA回路やバイアス設定の最適化に活用できます。

また、アンテナの整合確認やSWR(電圧定在波比)評価を行う際も、スペアナを使って放射される周波数スペクトルの形状を観察することが有効です。アンテナの共振点がズレていると、出力が減衰したり不要成分が増加する場合があります。


規格準拠のための帯域・スプリアス評価

無線通信は、各国の法令に基づいた周波数帯域・出力・スプリアス制限に従う必要があります。スペクトラムアナライザを使えば、以下のような規格評価を手軽に行えます。

占有帯域幅(OBW)測定
 通信波形が許可された帯域幅に収まっているか確認します。

スプリアス測定
 基本波以外の不要放射(高調波・ミキシング成分)が規定値以下であることを確認します。

隣接チャネル漏洩(ACP)
 チャネル間の干渉を防ぐため、隣接チャネルに漏れる信号強度を測定します。

これらの測定機能は、EMC試験や技適取得の事前確認(プリスキャン)にも活用されます。


通信安定性の観測:トレース機能とマーカ活用

スペクトラムアナライザでは、リアルタイムで送信信号の変化を追うことが可能です。以下のトレース機能を活用すると、通信安定性の確認が容易になります。

MAX HOLD:一時的なピーク信号を保持して表示
AVERAGE:通信波形の平均化で変動を抑える
CLEAR/WRITE:リアルタイム波形を常時更新
マーカ機能:周波数ごとのレベル読み取り、差分表示も可能

たとえばBLE通信のように間欠送信を行う場合、MAX HOLDを使って送信タイミングの最大出力を記録することで、最悪条件の測定ができます。


トリガ・トレンド表示による時系列分析も可能

機種によっては、外部トリガ入力やパルストリガに対応しており、一定条件での信号取り込みや遅延測定が可能です。また、時間変化をトレンドとして表示できるモデルもあり、通信の断続性や不安定な送信状態の追跡にも活用できます。

通信品質に影響を与えるノイズや温度変化による出力変動を観測したいときにも便利です。


スペアナ+スペアナ・オプションで高度な測定も

無線通信の開発においては、以下のようなスペクトラムアナライザのオプション機能が重要になる場合があります。

EMIプリスキャンモード
チャネルパワー測定(Channel Power)
隣接チャネル電力比(ACP)測定
占有帯域幅(OBW)解析
パス/フェイル判定機能

これらが搭載されていると、**通信モジュールの規格試験前の事前確認(Pre-compliance test)**が可能となり、設計手戻りや認証コストの削減につながります。


開発から量産ラインまで幅広く活用できる

スペクトラムアナライザは開発段階だけでなく、評価・検証・品質保証のフェーズでも活用されます。たとえば、量産ラインでの無線モジュールの出力確認や、組立後の電波漏洩チェックにも使われます。

特に、テスト時間の短縮と再現性のある測定が求められる生産現場では、自動測定スクリプト(SCPI)やUSB保存、LAN制御対応モデルが重宝されます。


まとめ:無線通信開発にスペアナは不可欠なツール

無線通信技術の開発・評価には、スペクトラムアナライザを使った信号の可視化と定量的評価が不可欠です。時間軸では見えない問題(帯域オーバー、スプリアス、電波干渉など)を明確に捉え、確かな通信品質を保証するには、周波数領域の観測が最も効果的です。

初期の送信確認からアンテナ調整、法規対応、量産ラインの品質チェックまで、スペクトラムアナライザは無線通信開発のあらゆる場面で役立ちます。

今後さらに多様な通信方式が普及していく中で、確実な無線設計と迅速な問題解決のために、スペクトラムアナライザは必須のツールであると言えるでしょう。