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スペクトラムアナライザの測定例で学ぶ:チャネルパワー・ACP・OBWとは
- 2025/7/6 -

スペクトラムアナライザの測定例で学ぶ:チャネルパワー・ACP・OBWとは


スペクトラムアナライザで何が測れるのか?

スペクトラムアナライザは、電子回路や無線機器の開発・評価で使われる代表的な測定器です。時間軸の変化を見るオシロスコープと異なり、スペクトラムアナライザは信号の周波数成分と振幅(パワー)を表示するため、RF信号の品質や電波の拡がり、隣接チャネルへの干渉などを定量的に把握できます。

中でも重要な指標となるのが「チャネルパワー」「隣接チャネル漏洩電力(ACP)」「占有帯域幅(OBW)」です。本記事では、それぞれの意味と測定方法、活用場面をわかりやすく解説します。


チャネルパワーとは何か?

チャネルパワー(Channel Power)とは、指定した周波数帯域内に含まれる信号全体の平均パワーを測定する機能です。たとえば、2.4GHz帯の無線通信で「中心周波数2.45GHz、帯域幅20MHz」のチャネルを設定すれば、その帯域内に存在する信号の合計パワーをdBmで表示します。

この測定は、無線機器が所定の送信出力内に収まっているか、設計どおりのパワーで動作しているかを確認するために使われます。

【使用例】
Wi-FiやBluetoothの送信出力確認
RFアンプの利得評価
送信電力の比較測定(省電力設計)
帯域フィルタの通過電力測定

【設定ポイント】
中心周波数(Center Frequency)と帯域幅(SpanまたはBandwidth)を設定
RBW/VBWを適切に調整(帯域幅の1/100〜1/10が目安)
平均トレースまたはMax Holdで安定的な表示を得る

チャネルパワーは、測定帯域内の全ての信号を積算して測るため、信号波形が複雑であっても実効的な出力を知ることができます。


ACP(隣接チャネル漏洩電力)とは何か?

ACP(Adjacent Channel Power)は、主チャネルの両隣の帯域に漏れ出した信号のパワーを測定する機能です。無線通信では、あるチャネルで送信しているときに、隣接するチャネルへ信号が漏れて干渉することがあり、これを定量化するのがACP測定です。

【使用例】
デジタル通信(LTE、W-CDMA、Wi-Fiなど)のスプリアス評価
送信機やPA(パワーアンプ)のリニアリティ評価
通信規格適合試験の事前確認(プリスキャン)

【測定方法】
主チャネルの中心周波数と帯域幅を設定
隣接チャネルの幅や距離(Offset)も指定
RBWとフィルタ形状を規格に応じて設定(例:3GPP、ETSIなど)

ACP測定では、主チャネルと隣接チャネルそれぞれのパワー比をdBc(チャネル比)またはdBm(絶対値)で表示します。設計ミスや過大な出力により、ACP値が規格を超えてしまうと、無線認証で不合格になる可能性もあります。


OBW(占有帯域幅)とは何か?

OBW(Occupied Bandwidth)は、信号の99%のパワーが含まれる周波数帯域の幅を自動的に測定する機能です。簡単に言えば、信号の「実質的な広がり」を測る指標です。

【使用例】
送信信号の広がり確認(Wi-FiやFM放送など)
通信規格で定められた帯域への適合チェック
フィルタ設計や帯域調整の評価
パルス信号や拡散信号のスペクトル幅測定

【測定の流れ】
中心周波数を設定し、トレースを取得
OBW機能で指定した割合(通常99%)のパワーを含む帯域を自動計算
結果は帯域幅(HzまたはMHz)で表示される

OBWは信号波形の形状や変調方式に影響されるため、帯域幅の安定性や設計上の余裕の有無を視覚的に判断する材料としても役立ちます。


測定結果をどう読み取るか?

3つの測定項目はそれぞれ異なる意味を持ちますが、組み合わせて使うことで、無線信号の健全性を多角的に評価することができます。

チャネルパワーが目標値に達しているか
→ 設計通りの出力で動作しているか確認

OBWが許容帯域内に収まっているか
→ 帯域外に漏れていないかを確認

ACPが規定値未満か
→ 他のチャネルへ干渉していないか確認

例えば、送信出力が強くても、OBWが広がっていたりACP値が悪化している場合、信号品質が悪い(スペクトルのスプリアス成分が多い)ことを意味します。


OWONスペクトラムアナライザでの測定例(XSA800シリーズ)

OWON XSA800シリーズのようなエントリークラスのスペクトラムアナライザでも、チャネルパワー・ACP・OBWの測定機能が搭載されており、以下のような流れで実施できます。

1.Center Frequencyを信号の中心に合わせる

2.SpanやRBWを信号帯域に合わせて設定

3.「Channel Power」「ACP」「OBW」機能を順次呼び出す

4.トレースを安定させて結果を記録(USB保存や画面キャプチャ)


また、Max Holdや平均モードを併用することで、短時間のピーク測定や変動成分の補足も可能です。


まとめ

チャネルパワー、ACP、OBWは、無線通信の信号解析において極めて重要な測定項目です。それぞれ、

チャネルパワー → 帯域内の送信出力
ACP → 隣接帯域への漏れ
OBW → 信号が実際に占めている帯域幅

という異なる角度から、信号の状態を数値で確認できるツールです。

これらの測定をスペクトラムアナライザで正しく行うことで、無線機器が規格通りに動作しているか、設計上の問題がないかを的確に判断できます。

今後、通信規格が複雑化し帯域利用が厳しくなるなかで、これらの測定機能はますます重要になります。測定手順と意味をしっかり理解し、製品開発やEMC対策に役立ててください。

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