電子回路の基本知識(9)‐カウンタ回路と応用例
前回は、デジタル回路における「クロック」と「タイミング制御」について学びました。今回はそれを応用した重要な回路のひとつ、「カウンタ回路(Counter)」について解説します。カウンタは、クロック信号に同期して数を数える回路で、時間計測やイベント回数の記録、状態遷移の制御など、幅広い用途に活用されています。
■ カウンタとは?
カウンタとは、クロック信号の立ち上がりや立ち下がりのたびに、出力値を1ずつ増やしたり減らしたりする回路です。主に次のような動作を行います:
0 → 1 → 2 → 3 → … と増加(アップカウント)
N → N-1 → N-2 → … と減少(ダウンカウント)
一定値に達したらリセット、またはループ(モジュロNカウント)
通常はDフリップフロップやTフリップフロップを複数組み合わせて構成します。
■ 非同期(リップル)カウンタと同期カウンタ
カウンタには大きく分けて2種類の構成方法があります。
【非同期(リップル)カウンタ】
・1段目のフリップフロップにクロックを直接接続し、2段目以降は前段の出力をクロックとして接続
・回路が簡単で少ない部品数で構成可能
・ただし各段が順番に切り替わるため、遅延が発生(高周波に不向き)
【同期カウンタ】
・すべてのフリップフロップに同じクロックを入力し、制御信号で状態を同期させる
・高精度で安定、応答が速い
・設計が複雑で、回路規模が大きくなる
小規模回路や低速動作では非同期でも十分ですが、タイミング精度が求められる場合は同期方式が適しています。
■ カウンタの種類
カウンタは動作モードや用途によってさらに分類できます。
【アップカウンタ】
クロックごとにカウント値が1ずつ増加
例:0 → 1 → 2 → 3 → …
【ダウンカウンタ】
クロックごとにカウント値が1ずつ減少
例:5 → 4 → 3 → 2 → …
【アップダウンカウンタ】
制御信号により、加算と減算を切り替え可能
【リングカウンタ】
1つの「1」がフリップフロップ間を順番に移動
例:0001 → 0010 → 0100 → 1000 → 0001 …
【ジョンソンカウンタ(トワイスリング)】
出力を反転してフィードバック、2倍の状態数を実現可能
■ カウンタICの活用
実際の回路設計では、汎用カウンタICがよく使われます。代表例:
74HC161:4ビット同期バイナリカウンタ
CD4017:10進デジタルデコーダ付きカウンタ
74LS190:アップ/ダウンカウンタ
これらのICは、フリップフロップとゲート回路が内部で最適に構成されており、接続も簡単です。
■ 実用例①:時間計測
一定周期のクロックを使って、時間を数えることができます。
例:1Hzのクロックでカウンタを動かせば、1クロック=1秒
→ 60クロックで「1分」など
これにより、時計、タイマー、一定時間の遅延処理などが実現できます。
■ 実用例②:順序制御(シーケンサー)
製造装置や家電などでは、「特定の手順に沿って動作を制御する」必要があります。
カウンタで0→1→2→3…と状態を進めて、各カウント値に応じて異なる処理を行うことで、以下のような動作が可能になります。
例:
カウント0:モーターON
カウント1:バルブ開く
カウント2:ヒーターON
カウント3:すべてOFFにしてカウントリセット
■ 実用例③:LED点灯制御(デコーダと組み合わせ)
カウンタ出力(例:2ビット)をデコーダ(2-to-4)につなげば、4つのLEDを順番に1つずつ点灯させる制御が可能です。これは「ランニングLED」や「ナイトライダー」風の演出などに応用されます。
■ リセットとプリセット機能
多くのカウンタICには、次のような補助機能が付いています。
リセット(CLR):出力を強制的に0に戻す
プリセット(PRE):任意の値からカウント開始
イネーブル(EN):カウント動作のON/OFF制御
これらを使うことで、より柔軟な制御やイベントトリガーが可能になります。
■ 注意点
非同期カウンタは遅延によるグリッチ(瞬間的な誤出力)に注意
高周波動作では、配線の等長化やノイズ対策が必要
複数のカウンタを連結する場合は、キャリーフラグ(CARRY出力)などのタイミングを合わせることが重要
■ まとめ
カウンタ回路は、「数を数える」というシンプルな機能ながら、時間制御、状態遷移、順序処理、信号分周など、幅広い場面で使われる重要な基本回路です。クロックやフリップフロップと組み合わせることで、信号処理の自動化やデジタル制御の基盤を支えています。
次回は、「電子回路の基本知識(10)‐パルス制御とPWMの基礎」と題して、LEDの明るさやモーターの速度を制御するための「PWM(パルス幅変調)」技術について解説いたします。
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