オシロスコープ プローブ入門(7)最新プローブ技術と今後の進化
■はじめに
オシロスコープ本体の高性能化とともに、プローブもまた技術的に大きな進化を遂げている。従来のパッシブプローブや差動プローブに加え、高速測定や高耐圧環境向けに開発された各種の先進的プローブが登場しつつある。
本稿では、近年注目されているプローブ技術のトレンドと、今後の進化の方向性について整理する。
■光アイソレーションプローブ
光アイソレーション型プローブは、測定信号を電気的に絶縁し、光信号に変換してオシロスコープに伝送する方式を採用している。これにより、測定対象と測定器の間に電位差があっても、信号を安全かつ高忠実度で取り込むことが可能となる。
絶縁型スイッチング電源、高周波インバータ、EVの高電圧回路など、グラウンドが不安定または高電位にある機器を測定する場面で非常に有効である。加えて、共通モードノイズの影響も受けにくく、優れたノイズ耐性を発揮する。
一部の製品では、2Gbps以上の伝送速度や数千ボルトのコモンモード耐圧を実現しており、今後さらに小型化と高帯域化が進むことが期待されている。
■プローブ自動識別機能
近年のデジタルオシロスコープには、接続されたプローブの種類や減衰比、モデル名などを自動で識別する機能が搭載されている機種が増えている。これにより、ユーザーが手動で減衰比を設定し忘れて誤測定をしてしまうといったリスクが大きく低減される。
専用のインターフェースやプローブチップに内蔵されたIDチップにより、オシロスコープ側がプローブを認識し、内部設定を自動で最適化する仕組みである。また、温度補正やキャリブレーション情報も自動的に反映される機種もある。
このような機能は、複数チャンネルや複数種類のプローブを同時に扱う際にとくに便利で、プロの現場において作業効率と測定信頼性を高めている。
■超広帯域プローブ
次世代通信規格や高周波デジタル回路の開発にともない、プローブにも数GHz〜数十GHzという超広帯域化が求められるようになっている。これに対応するため、低キャパシタンス設計や特殊な同軸構造、電磁遮蔽技術が導入されている。
代表的な用途としては、SerDes信号のアイパターン測定、PCIeやUSB4などの高速インターフェース、ミリ波帯無線の波形観測などが挙げられる。
このようなプローブは非常に高価である一方、測定再現性やタイミング精度、シグナルインテグリティの評価に不可欠な存在となっており、オシロスコープとのトータルソリューションで導入されるケースが増えている。
■アクティブ差動プローブの進化
従来のパッシブ差動プローブに代わり、アクティブ差動プローブが主流となりつつある。これは高入力インピーダンスと広帯域を両立させる設計が可能であり、高速信号でも回路への影響を最小限に抑えて測定できる。
新型のアクティブ差動プローブは、ゲイン調整機能、帯域制限切り替え、差動オフセット調整などが搭載されており、微小信号の精密な観測が可能となっている。また、外部電源ではなくUSB供給で動作するモデルも登場し、取り回しも容易になっている。
■高電圧・高周波両対応プローブ
一部の特殊な応用では、高電圧かつ高周波という難条件での波形測定が求められる。これに応えるために、電圧耐性が数kV以上かつ帯域が数百MHzというハイブリッド特性を持つプローブが開発されている。
たとえば、パワーエレクトロニクスのゲート信号測定、誘導加熱装置の波形観測、EVのモータ駆動波形などが対象である。こうしたプローブには、熱安定性や放熱性を高めた特殊構造や、コモンモード除去機能の強化が施されている。
■今後の技術トレンド
今後のプローブ技術においては、以下のような動向が予想される。
プローブのモジュール化とプラグアンドプレイ対応
AIによる自動スケーリングと波形解析の連携
センサーヘッド一体型プローブによる簡易測定ソリューション
校正・自己診断機能の高度化によるトレーサビリティ確保
5G・ミリ波・パワー半導体市場に特化した専用プローブの増加
また、エンジニアの負荷を減らし、正確な測定を支援するためのスマート機能やユーザーインターフェースの改善も進むと考えられる。
■まとめ
プローブは単なる信号入力手段ではなく、測定精度・安全性・作業効率を大きく左右する重要なデバイスである。近年では、光絶縁や自動識別、超広帯域など、用途に応じて高度に専門化したプローブが数多く登場しており、オシロスコープと合わせた総合的な活用が求められている。
今後も、測定対象の多様化と技術の進化に対応する形で、プローブの開発は進んでいくであろう。正しい選定と使いこなしが、エンジニアにとってますます重要なスキルとなっていく。
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