オシロスコープ プローブ入門(4)用途別のおすすめプローブと測定技法
■はじめに
測定対象の回路や信号の特性に応じて、適切なプローブを選ぶことは精度の高い波形観測に欠かせない。プローブの種類や使い方を理解していても、実際の用途ごとにどのような選択と接続方法が適しているかを知っておく必要がある。
今回は、代表的な測定シーンにおけるプローブの選び方と、信頼性の高い測定を行うための実践的な接続・観測のポイントを解説する。
■低周波アナログ信号の測定
オーディオ信号やセンサ出力など、数ヘルツから数百キロヘルツ程度の低周波信号の測定では、十対一のパッシブプローブが一般的に使用される。入力インピーダンスが高く、アナログ信号に対する影響が少ないため、信号の忠実な再現が可能である。
この場合、グラウンドリードは極力短くし、プローブの補正を忘れずに行うことで、波形のひずみやノイズの混入を防ぐことができる。また、測定中の手振れによる変動を防ぐために、プローブスタンドの活用が有効である。
■スイッチング電源の波形観測
スイッチング電源では、高速なスイッチングノードや電圧の変動が激しいポイントを測定することになるため、広帯域対応のパッシブプローブや、場合によってはアクティブプローブが必要になる。
特に、MOSFETのドレインやスイッチングノードの測定では、グラウンドリードを使わず、専用のスプリングチップアダプタを使用することで、ループ面積を最小化し、高速な立ち上がり波形を忠実に観測できる。
また、スイッチングノードはフローティング電位であることが多いため、差動プローブを使用することでより安全かつ正確な測定が可能となる。
■差動信号の測定
高速な差動信号を使用するインタフェース、例えばUSBやLVDS、CAN、Ethernetなどでは、ノイズ耐性と信号品質を重視した差動測定が推奨される。
このような場合には、広帯域対応の差動プローブが有効であり、共通モード除去比の高い製品を選ぶことで、ノイズの影響を受けにくい測定が可能になる。接続時は、信号ペアの中心点で測定を行い、リターンパスにノイズが回り込まないように配慮する必要がある。
■高電圧回路の測定
商用電源ラインやインバータ、電源トランスなど、高電圧が印加される回路の測定では、必ず高電圧対応のパッシブプローブまたは絶縁型差動プローブを使用すること。
通常のプローブで高電圧を測定すると、オシロスコープ本体を損傷したり、測定者に危険が及んだりする恐れがある。安全規格に対応したプローブを選び、グラウンド接続の位置も慎重に検討する。
特に、商用交流測定では、地絡により回路全体が浮いた状態になることがあり、オシロスコープ側がショート状態になるケースもあるため、絶縁対策と測定手順を徹底することが重要である。
■電流波形の測定
電流プローブは、配線にクランプするだけで非接触に近い形で電流波形を測定できる。突入電流や定常電流、周期的な負荷変動の解析などに有用であり、特に直流・交流両対応のホール効果型プローブが汎用性が高い。
測定レンジや帯域に応じたプローブを選定することはもちろん、ゼロ調整やオフセット設定を丁寧に行うことで、正確な測定が可能になる。電流プローブは大きさや形状の制限を受けやすいため、対象回路のスペースにも注意が必要である。
■フローティング信号の測定
フローティングとは、測定対象がグラウンドに接続されていない、または複数の電位基準が存在する状態を指す。スイッチング電源の2次側、バッテリー回路、電力機器間の絶縁ポイントなどが該当する。
このような測定では、接地型のパッシブプローブでは正確な信号を得ることができず、また危険を伴う可能性がある。差動プローブや光絶縁型プローブを使うことで、安全かつ正確な測定が可能になる。
特に絶縁型プローブは、外部から完全に電気的に分離されており、高耐圧環境やノイズの多い場所でも安定した測定が可能である。
■小信号・高インピーダンス信号の測定
センサの出力や信号処理ICの入出力など、数ミリボルトから数ボルト程度の微小信号や高インピーダンスノードでは、アクティブプローブが推奨される。
入力容量が極めて小さく、信号源への影響が最小限に抑えられるため、波形のひずみやノイズの影響を避けることができる。ただし、価格が高く取り扱いも慎重さを要するため、測定環境に応じた準備と接続方法の確認が必要である。
■まとめ
回路の種類や測定対象の条件により、最適なプローブと測定方法は大きく異なる。汎用的なパッシブプローブだけでは対応しきれない場面も多く、用途ごとに特化したプローブを正しく選定し、使用方法を守ることで、精度の高い測定と安全な作業が実現できる。
次回は、測定トラブル事例とその原因、そして回避・改善のためのヒントを紹介する予定である。
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