電子回路の基本知識(4)‐コンデンサとコイルの基礎
電子回路を構成する主要な受動部品として、「抵抗」「コンデンサ」「コイル(インダクタ)」の3つが挙げられます。前回までは電圧・電流・オームの法則、直流と交流の違いなど、回路全体の基礎について学びましたが、今回は電子部品の中でも特に動作の理解が難しいとされる「コンデンサ」と「コイル」に焦点を当てて解説します。
■ コンデンサとは
コンデンサ(capacitor)は、電荷を一時的に蓄える部品です。2枚の導体(電極)の間に絶縁体(誘電体)を挟んだ構造になっており、電圧がかかると電極に電荷がたまり、電源が外れても短時間電気を保ちます。
特徴は以下の通りです。
・直流電流は流さない(一定の電圧がかかるとそれ以上電流が流れない)
・交流電流は通す(時間的に変化する電圧には反応して電流が流れる)
・充電・放電の性質を利用して、時間の遅延や平滑動作を実現できる
たとえば、電源ノイズの除去や、LEDのちらつきを抑える用途、スイッチON時の突入電流防止、タイミング回路などに使用されます。
容量の単位は「ファラド(F)」ですが、通常は「μF(マイクロファラド)」「nF(ナノファラド)」「pF(ピコファラド)」など、より小さい単位が使われます。
■ コイル(インダクタ)とは
コイル(inductor)は、導線を渦巻き状に巻いた構造をしており、電流が流れることで磁場が発生する部品です。電流の変化に対して抵抗する性質があり、これを「自己誘導」と呼びます。
特徴は以下の通りです。
・直流電流は通す(安定した電流には反応しない)
・交流電流には抵抗する(特に周波数が高いほど流れにくくなる)
・磁場を利用してエネルギーを一時的に蓄えることができる
たとえば、電源回路におけるノイズ除去、スイッチング電源のフィルタ、トランス、RF回路の同調回路などに用いられます。
インダクタンスの単位は「ヘンリー(H)」で、実際の回路では「mH(ミリヘンリー)」「μH(マイクロヘンリー)」の範囲がよく使用されます。
■ コンデンサとコイルの比較
特性 | コンデンサ | コイル(インダクタ) |
---|---|---|
エネルギーの蓄え方 | 電荷を蓄える | 磁場にエネルギーを蓄える |
直流に対する性質 | 通さない(充電完了後は絶縁) | 通す(安定していれば抵抗しない) |
交流に対する性質 | 通す(周波数が高いほど流れやすい) | 流れにくい(周波数が高いほど抵抗増加) |
用途の例 | ノイズ除去、平滑、タイマー、信号分離 | ノイズ除去、昇圧・降圧、フィルタ、同調回路 |
このように、コンデンサとコイルは互いに補完的な性質を持ち、回路設計ではしばしば組み合わせて使用されます。
■ コンデンサの実用例
【電源の平滑化】
整流後の直流電圧には波打つリップルが残るため、コンデンサを挿入して電圧を安定させます。大容量の電解コンデンサがよく使用されます。
【ノイズ除去】
高周波ノイズはコンデンサを通過しやすい性質を利用して、GND(接地)に逃がすフィルタとして活用されます。
【タイミング回路】
抵抗と組み合わせることで「一定時間だけ出力を変化させる」などの機能が可能。代表的なICに「555タイマー」があります。
■ コイルの実用例
【スイッチング電源】
電源のオンオフを高速に繰り返し、コイルにエネルギーを蓄えてから放出することで、昇圧(Boost)や降圧(Buck)などが可能になります。
【ローパスフィルタ】
コンデンサと組み合わせて、特定の周波数以上を遮断するフィルタとして利用されます。音響回路やRF回路での使用も多いです。
【ノイズ抑制】
コモンモードチョークコイルやフェライトビーズなどがあり、特に高周波ノイズに対して効果を発揮します。
■ よくある注意点
・コンデンサには「極性あり(電解)」「極性なし(セラミックなど)」があり、極性を誤ると破損の原因になります。
・コイルは直流抵抗(DCR)も持っているため、理想通りの振る舞いにならないことがあります。
・高周波回路では寄生容量や寄生インダクタンスも考慮する必要があります。
■ まとめ
コンデンサとコイルは、直流と交流に対する振る舞いが真逆であり、それぞれが電子回路に欠かせない役割を担っています。単なる部品のひとつと捉えるのではなく、「電気的な性質」を理解することで、より効果的な回路設計やトラブル対応が可能になります。
次回は、「トランジスタの基本とスイッチング動作」をテーマに、電子回路で最も重要な能動部品であるトランジスタの働きと応用について解説します。
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