電子回路の基本知識(2)‐直列回路と並列回路の違いと使い分け
前回は、電子回路の基本要素である「電圧」「電流」「抵抗」と、その関係式であるオームの法則について解説しました。今回はそれを踏まえて、回路の基本構成である「直列回路」と「並列回路」について、その違いと使い方を学んでいきましょう。
■ 直列回路とは
直列回路とは、すべての電子部品が1本の電流経路上に順番に接続された回路のことです。電流は1本の道筋しか通れず、途中にあるすべての部品に同じ電流が流れます。
例えば、電源に対して抵抗Aと抵抗Bを一直線につなげた場合、電流はまず抵抗Aを通り、次に抵抗Bを通って電源へ戻ります。このとき、電流の大きさはAとBを通るどの点でも同じです。
直列回路の特徴は以下の通りです。
・電流はどの部品にも同じ値が流れる
・電圧は各部品で分割される(合計すると電源電圧になる)
・トータルの抵抗は、すべての抵抗値の合計になる
例えば、10Ωと20Ωの抵抗を直列につないだ場合、合成抵抗は10Ω+20Ω=30Ωです。電源電圧が6Vならば、オームの法則より、電流は6V÷30Ω=0.2Aです。
それぞれの抵抗にかかる電圧は次のように分かれます。
10Ω:0.2A×10Ω=2V
20Ω:0.2A×20Ω=4V
合計すると2V+4V=6Vとなり、電源電圧と一致します。
■ 並列回路とは
並列回路は、各電子部品がそれぞれ独立した電流の経路を持つように、同じ2点間に接続される構成です。電流は分岐し、各枝の抵抗や部品に応じて異なる電流が流れますが、すべての枝に同じ電圧がかかります。
例えば、電源の両端に抵抗Aと抵抗Bをそれぞれ並列に接続した場合、AとBには電源と同じ電圧がかかりますが、流れる電流は異なります。
並列回路の特徴は以下の通りです。
・電圧はすべての部品に共通
・電流は各部品に分かれて流れる
・合成抵抗は、逆数の和の逆数になる(全体の抵抗は小さくなる)
抵抗10Ωと20Ωを並列に接続したとき、合成抵抗は次の式で求められます。
1/R合成 = 1/10Ω + 1/20Ω
= 0.1 + 0.05 = 0.15
R合成 = 1 ÷ 0.15 ≒ 6.67Ω
このように、直列の場合は抵抗が大きくなりますが、並列にすると小さくなることがわかります。これは水道管に例えると、直列は細い管を繋げていくイメージ、並列は複数の管で水を分けて流すイメージです。
■ 電球の例で考える
学校の理科実験などでよく扱われる「豆電球」を例に考えてみましょう。
● 直列に電球を2個つなげた場合
→ 電流は全体で1本のため、どちらの電球にも同じ電流が流れます。電圧は2つに分けられるため、1個だけのときよりも暗くなります。
● 並列に電球を2個つなげた場合
→ 電圧は各電球に同じようにかかるため、1個のときと同じ明るさで点灯します。ただし、電流は2倍近く必要になります。
このように、目的(明るさを維持したい、電流を抑えたいなど)によって直列と並列を使い分けることが重要です。
■ 実用面での使い分け
直列回路と並列回路は、それぞれに向き不向きがあります。
【直列回路が適している場面】
・単純な制御(スイッチなど)
・LEDや抵抗の電流制限
・複数の電池を使って電圧を高めたいとき(1.5V×2本で3Vなど)
【並列回路が適している場面】
・複数の負荷を同時に動作させたいとき(LEDやモーター)
・一部の回路が切れても他が動作し続けてほしい場合
・安定した電圧を必要とする用途
特に電子機器では、電源ラインは多くの場合並列で構成されています。これは各デバイスに同じ電圧を供給するためです。一方で、信号処理や制御信号などでは直列構成もよく使われます。
■ まとめ
今回紹介した直列回路と並列回路は、電子回路設計の根本的な考え方です。それぞれの回路の特性や計算方法を理解することで、回路図の読み書きやトラブル時の原因特定にも役立ちます。
次回は、直流(DC)と交流(AC)の違いや、それぞれの特徴と使われ方について解説します。電子回路における電源の選び方や、信号波形の基礎にも触れる予定です。
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