オシロスコープ プローブ入門(6)プローブ選定のポイントとスペックの見方
■はじめに
オシロスコープの性能を最大限に引き出すためには、適切なプローブを選ぶことが欠かせない。プローブは単なる付属品ではなく、測定結果の精度や安全性に大きな影響を与える重要な構成要素である。
本稿では、プローブを選定する際に注目すべき主な仕様やスペックの意味を解説し、使用目的に応じた選定のポイントを整理する。
■帯域幅(Bandwidth)
帯域幅とは、プローブが信号を正確に伝送できる周波数の上限を示す。たとえば帯域幅が100MHzのプローブは、100MHzまでの信号を歪みなく測定可能である。
一般的に、測定したい信号の周波数成分の三倍程度の帯域を持つプローブを選ぶことが推奨されている。たとえば25MHzのクロック信号を正確に観測するには、少なくとも75MHz以上の帯域が必要となる。
プローブの帯域は、オシロスコープ本体の帯域とも整合が必要であり、どちらか一方の帯域が狭いと全体の性能が制限されることになる。
■減衰比(Attenuation Ratio)
減衰比とは、入力信号の電圧をどの程度に分圧してオシロスコープへ伝えるかを示す。代表的なものに十対一や一対一、百対一などがある。
十対一は、10Vの信号を1Vにして測定器へ送るという意味であり、高電圧信号を安全に測定する際に有効である。一方、一対一プローブは低電圧・低インピーダンスの信号に向いており、入力インピーダンスもオシロスコープの入力と一致させる必要がある。
減衰比の切り替えが可能なスイッチ付きプローブも存在するが、測定精度や周波数特性に影響するため、設定と表示が一致していることを必ず確認する。
■入力インピーダンス
入力インピーダンスは、プローブの測定端が信号源に与える負荷の大きさを示す。一般的な十対一パッシブプローブでは、一メグオームの抵抗と十ピコファラッド程度の容量が標準仕様である。
高インピーダンスの信号源では、入力容量が大きいプローブを使うと信号が減衰したり、波形が乱れる原因になる。このような場合は、低容量型のアクティブプローブや高入力抵抗型のものを選択することで、影響を最小化できる。
■最大入力電圧
プローブが安全に扱える最大の入力電圧も重要な指標である。許容電圧を超えた信号を測定すると、プローブやオシロスコープが損傷する恐れがある。
パッシブプローブの中には、定格が数百ボルトから一千ボルト程度のものもあり、インバータや商用電源の測定に対応している。一方、アクティブプローブは入力耐圧が低い傾向にあるため、仕様を十分に確認したうえで使用する必要がある。
■コモンモード除去比(CMRR)
差動プローブにおいて特に重要な指標がコモンモード除去比である。これは、信号の共通成分をどの程度打ち消せるかを表しており、値が高いほどノイズ耐性が高く、正確な差動波形を観測できる。
たとえば、スイッチング電源の出力やCAN通信、RS-485などのノイズの多い差動信号では、高CMRRの差動プローブが威力を発揮する。仕様書に記載された周波数ごとのCMRRを確認することが、選定のポイントとなる。
■立ち上がり時間(Rise Time)
立ち上がり時間とは、波形が一〇パーセントから九〇パーセントまで変化するのにかかる時間であり、高速信号測定の精度を左右する要素である。
帯域幅と立ち上がり時間の関係は、おおよそ次のような式で表される。
立ち上がり時間(ナノ秒)=〇・三五÷帯域幅(ギガヘルツ)
この式を参考に、測定対象の信号に必要な応答速度を持ったプローブを選定する。
■プローブ先端の形状と付属品
測定のしやすさや信頼性にも関わるのが、プローブ先端の形状や付属のアダプタ類である。フックタイプ、ICクリップ、スプリングチップ、同軸アダプタなどが用意されている製品は、接続安定性を高め、手作業のミスを減らす助けになる。
また、接地リードが交換可能なプローブであれば、短いショートグラウンドに交換することで高周波特性が向上する。用途に合わせた先端オプションの豊富さも、実用上の大きな評価ポイントである。
■プローブ補正機能の有無
プローブによっては、温度変化や経年変化によって特性がずれていくものがある。こうした影響を抑えるために、オートコンペンセーション機能やマニュアル調整用ネジが設けられている製品も存在する。
定期的に補正を行うことで、プローブの性能を維持し続けることができる。プローブ校正用の基準信号出力端子があるオシロスコープとセットで使うことで、より高精度な観測が可能となる。
■まとめ
プローブを選定する際には、帯域、減衰比、インピーダンス、最大入力電圧といった基本スペックだけでなく、測定対象の信号特性や使用環境を十分に考慮することが必要である。単に帯域が広い製品を選ぶのではなく、ノイズ耐性、安全性、接続のしやすさなど、総合的な視点で最適なプローブを選定したい。
次回は、最新のプローブ技術と今後の進化について、光絶縁型プローブやプローブの自動識別機能などの例を挙げながら紹介する予定である。
Previous: オシロスコープ プローブ入門(7)最新プローブ技術と今後の進化
もっと用語集
- 無線通信の開発におけるスペクトラムアナライザの活用法とは?
- OWON TAO3000シリーズ タブレット・オシロスコープの機能と活用ガイド
- OWON SPEシリーズ シングルチャンネル直流電源の使い方と機能解説
- OWON VDS6000シリーズ PCベース・オシロスコープ FAQ
- OWON VDS6000シリーズ PCベース・オシロスコープの特長と使い方
- OWON XDS3000シリーズ オシロスコープ FAQ
- OWON XDS3000シリーズ 4チャンネル デジタル・オシロスコープの特長と活用法
- OWON XSA800シリーズ スペクトラムアナライザ FAQ
- OWON XSA800シリーズ スペクトラムアナライザの機能と活用法
- スペクトラムアナライザとは?仕組み・使い方・活用例をわかりやすく解説
- ファンレス静音!実験室向けDC電源SPSシリーズ活用術
- EMI対策に必須!スペクトラムアナライザによるノイズ測定入門
- スペクトラムアナライザの選び方:帯域・RBW・DANLの意味と基準
- FFT vs スペクトラムアナライザ:どちらで周波数解析するべき?
- スペクトラムアナライザの測定例で学ぶ:チャネルパワー・ACP・OBWとは
- 測定現場で役立つスペアナの便利機能10選【マーカ・トレース・トリガ】
- 初心者向け!スペクトラムアナライザの使い方ステップガイド
- スペクトラムアナライザ導入事例:教育機関・開発・品質保証の現場から
- ハンドヘルド型 vs 据え置き型:スペクトラムアナライザの形状別メリット比較
- 1台2役!OWON SPMシリーズで電源と測定を同時に
- 300Wクラスで選ぶ直流電源ベスト3:SPE・SPM・SPS比較
- スペクトラムアナライザの基礎知識:オシロスコープとの違いとは?