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オシロスコープ プローブ応用(2)車載信号の測定とノイズ対策
- 2025/7/1 -

オシロスコープ プローブ応用(2)車載信号の測定とノイズ対策

■はじめに

自動車の電子制御化が進む中で、ECUやセンサ間を結ぶ通信や制御信号の測定ニーズが高まっている。車載信号には、CANやLINといったシリアル通信、PWM信号、アナログセンサ信号、高電圧パルスなど多様な形式が存在し、いずれも信頼性の高い計測が求められる。

本稿では、こうした車載信号をオシロスコープで測定する際のプローブ選定、ノイズ対策、実践上のポイントを解説する。

■車載信号の種類と特徴

車載信号は、以下のように分類できる。

デジタル通信(CAN、CAN FD、LIN、FlexRayなど)
パルス制御信号(PWM、イグニッション信号、スイッチング出力など)
アナログセンサ信号(温度、電圧、電流、ホール素子など)
電源ライン(12V、24V系、昇圧・降圧電源、ノイズ成分)

これらの信号は、低電圧でありながらノイズが多く、配線が長いため波形に反射や歪みが生じやすい。また、自動車という限られた空間に多くの電子機器が密集しており、電磁干渉の影響も大きい。

■差動プローブの活用が鍵

CANやLINなどのバス通信は、差動信号として扱われるため、オシロスコープで観測するには差動プローブが必要となる。

差動プローブは、HラインとLラインの電圧差を直接観測でき、共通モードノイズの影響を最小限に抑えられる。入力容量が小さいものを選べば、バスの動作に与える負荷も抑制できる。

また、差動測定によって波形の歪みが減り、レベル判断や立ち上がり・立ち下がり時間の評価、誤動作検出なども正確に行えるようになる。

■グラウンドの取り扱いと浮遊ノイズ対策

車載信号測定で特に注意すべきはグラウンドの取り扱いである。車両のボディーが基準電位(車体アース)となっているが、各ユニット間で電位差が生じている場合、プローブのグラウンドクリップを不用意に接続すると電流が流れ、オシロスコープや測定対象を破損する危険がある。

これを防ぐには、差動プローブや光絶縁型プローブを用いて、測定対象に対してフローティング状態で計測することが望ましい。また、グラウンドループによる誘導ノイズ対策として、プローブのリードを短く保ち、シールドケーブルやフェライトコアを適切に用いることが効果的である。

■プロービング技術と測定精度の関係

自動車内ではノイズ源が多数存在するため、プロービングそのものの質が波形の信頼性に直結する。

プローブは信号ラインに確実に接触させるだけでなく、グラウンドリードを極力短くしてノイズの回り込みを防ぐ。特にPWM信号などの高速立ち上がり波形では、リードが長いとオーバーシュートやリンギングが発生しやすくなる。

専用の車載信号用フィクスチャやアダプタを用意し、安定した接続を確保することで、測定再現性を高めることができる。

■測定対象ごとのプローブ選定例

CAN、LIN通信
差動プローブ(帯域100MHz以上、CMRR高め)を使用。波形解析やプロトコルデコード機能と併用すると便利。

PWM制御信号(スロットル制御、ファン制御など)
パッシブプローブで測定可能だが、高速タイプかつグラウンド短縮が有効。DC結合とAC結合の使い分けもポイント。

ホール素子やアナログセンサ信号
高感度のパッシブプローブや差動プローブを使用。ノイズ対策としてアナログローパスフィルタ機能の活用が効果的。

電源ライン
高減衰比プローブでの測定が基本。突入電流などを測定する際は、電流プローブとの組み合わせも考慮する。

■現場で役立つ機能と活用ポイント

オシロスコープのプロトコルデコード機能を活用すれば、CANバス上の通信内容をリアルタイムにモニタ可能である。タイミングチャートとの突合や、異常発生時のトリガ設定にも有効である。

また、波形の統計分析、ヒストグラム機能、マスクテストなどを併用することで、設計上のマージン確保や製品検査にも応用が可能になる。

■まとめ

車載信号の測定は、信号の種類が多様で、ノイズや接地の影響も受けやすいため、プローブの選定と使い方が波形の正確性を左右する。

特に差動プローブや絶縁型プローブの活用が重要であり、安全性と信頼性を両立させた測定環境を構築することが、車載電子機器の評価や不具合解析において不可欠である。

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