オシロスコープ プローブ応用(1)高電圧測定の基本と安全対策
■はじめに
高電圧信号の測定は、オシロスコープを使った計測の中でも特に慎重な取り扱いが求められる領域である。回路への誤接続やプローブの過電圧、絶縁不良などが起こると、機器の損傷や感電といった重大な事故につながる可能性がある。
本稿では、高電圧測定に適したプローブの種類と選び方、安全確保のための注意点、実際の活用例までを整理し、測定現場で役立つ実践知識としてまとめる。
■高電圧測定とは何か
一般的なオシロスコープの入力レンジは、1メガオームインピーダンスで±5ボルトから±40ボルト程度であり、これを超える信号を直接測定することはできない。数百ボルトから数千ボルトに及ぶ高電圧信号を観測するには、対応した高減衰比のプローブが不可欠である。
また、信号自体がグラウンド基準でなくフローティングであることも多く、測定には差動測定や絶縁構造が必要となるケースもある。
■高電圧用パッシブプローブ
もっとも一般的な高電圧測定用プローブは、百対一または千対一の減衰比を持つパッシブプローブである。これにより、例えば一千ボルトの信号を一ボルト相当としてオシロスコープに入力することができる。
こうしたプローブは、耐電圧が高いだけでなく、絶縁距離が確保された設計となっており、プローブ本体の外装材質も強化樹脂やセラミックが用いられている。
減衰比が大きくなるほど、信号の微細な変化の分解能は落ちるため、精度を求める用途ではオシロスコープ本体側の垂直分解能(12ビットなど)も重要な選定要素となる。
■差動高電圧プローブ
電源ラインやインバータの出力など、グラウンドから浮いた高電圧信号を測定する場合は、差動高電圧プローブが必要になる。
これらは両入力間の電圧差を測定する構造となっており、測定対象に対して電気的にフローティングである。コモンモード耐圧が数キロボルトに達するものもあり、安全性と計測信頼性を両立している。
車載用の48ボルト回路や産業用制御盤のDCリンクなど、両端が同時に高電位にある信号でも、プローブによって安全に差分電圧が測定可能となる。
■光アイソレーションプローブの活用
さらに安全性を高めたい場合や、高速信号の高電圧測定が求められる場合には、光アイソレーション方式のプローブが有効である。
これらは入力部と出力部が完全に電気的に絶縁されており、信号を光に変換して伝送することで、絶縁耐圧数千ボルトと広帯域の両立を実現している。共通モードノイズの除去能力も高く、パワーエレクトロニクスやEV開発分野での採用が広がっている。
絶縁電源を内蔵しているモデルもあり、測定系全体の絶縁設計に寄与する。
■測定時の安全対策とチェックリスト
高電圧を扱う測定では、以下のような基本対策が必須である。
測定対象が完全に停止または安定している状態で接続を行う
測定ケーブルやプローブ先端がしっかりと固定されているかを確認する
オシロスコープの接地状態とプローブのグラウンド接続が矛盾していないか確認する
プローブの定格耐電圧と帯域が測定対象に対して十分であるかを確認する
可能であれば絶縁トランスを介した電源供給やフローティング計測の構成とする
測定環境を整え、手や工具が測定対象に触れないような配置にする
メーカーの安全規格(CAT II, CAT IIIなど)を確認し、対象回路に適合した仕様のものを選ぶ
特に感電やアーク放電のリスクを伴う高電圧回路では、PPE(個人保護具)着用も必要である。
■実際の応用例
高電圧測定の代表的な応用シーンとして、以下のようなものがある。
スイッチング電源のスナバ波形測定
インバータ出力のノイズ評価と立ち上がり特性確認
商用電源(AC100V、AC200V)のリップル観測
EVのモータ制御系やDCリンク電圧の監視
トランスの一次・二次間のクロストーク評価
雷サージ・ESD試験後の波形記録と過渡解析
これらの測定では、信号の瞬時値だけでなく、過渡応答やスパイク、ノイズ波形の解析が重要になるため、高帯域で分解能の高いプローブが求められる。
■まとめ
高電圧測定は、正確な測定だけでなく安全性の確保が最優先される分野である。パッシブ高減衰プローブ、差動高電圧プローブ、光アイソレーションプローブなど、用途に応じて適切な選定と活用が必要になる。
測定前の確認手順や機器の仕様理解を怠ることなく、プローブの性能を最大限に活かすことで、安心・安全かつ信頼性の高い測定が実現できる。
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