差動プローブとは
差動信号と差動プローブの基本
差動プローブとは、2本の入力端子を持ち、それぞれの信号の電位差を直接測定する専用の測定器である。通常のパッシブ・プローブやシングルエンド入力のオシロスコープでは、GNDを基準に一つの信号を観測する形式だが、差動プローブではGNDを介さず、2点間の純粋な電圧差を捉えることができる。このため、ノイズ耐性や波形の忠実性において大きな利点がある。
差動プローブの特徴と利点
差動プローブは、ノイズが多い環境や、信号レベルが小さい微小差動信号の測定において特に有効である。コモンモードノイズの影響を大幅に除去できる点が最大の特長であり、デジタル通信の高速差動信号やスイッチング電源回路など、ノイズが多く混入する現場で正確な測定を行うためには欠かせない。また、計測対象がフローティングしている場合でも、安全に測定できるという安全性の面でも利点がある。
適用例と代表的な用途
差動プローブは、以下のようなシーンで活用されている。
スイッチング電源のリップルやノイズ測定
モータードライブ回路のハーフブリッジ出力測定
高速インターフェース(LVDS、USB、HDMI、CAN、FlexRayなど)の差動信号波形測定
IGBTやGaNなどのパワーデバイスの動作波形確認
フローティング信号ラインの観測や絶縁システムの評価
特に高電圧に対しても対応可能な光アイソレーション型や、GHz帯の帯域を持つ高性能モデルなど、用途に応じた多様なモデルが市場に展開されている。
プローブの帯域と精度の選び方
差動プローブの性能を語る上で重要なのは、帯域とコモンモード除去比(CMRR)である。帯域は観測したい信号の最高周波数の3〜5倍程度を目安に選定することが推奨される。また、CMRRはノイズ除去性能を示す指標であり、dBで表される。特に10MHz以上の高周波成分を含む信号を扱う場合は、高いCMRRが求められる。
さらに、入力インピーダンスや入力レンジ(測定できる最大電圧)、プローブの先端アクセサリの種類も、使用する回路や信号に適したものを選ぶ必要がある。
高電圧対応差動プローブと絶縁設計
近年は、1000Vを超える高電圧測定に対応した差動プローブも登場しており、特に電力変換装置やEVモータードライブなどでの活用が進んでいる。これらのプローブは絶縁性能にも優れており、使用者の安全を確保しながら正確な測定を可能とする。絶縁方式としてはトランス方式、フォトカプラ方式、光ファイバー方式などがあるが、光アイソレーション型は高い絶縁性能と広帯域性を兼ね備えているため、注目されている。
実使用時の注意点
差動プローブを使用する際は、以下の点に注意する必要がある。まず、測定対象の電圧レンジを超えないこと。次に、プローブ先端の接触が確実かつ安定していること。ノイズの影響を受けやすいため、ケーブルの引き回しや接地方法にも注意が必要である。また、プローブの補正が適切に行われているかどうかも、測定精度に大きく影響するため、定期的な校正やゼロ調整が必要となる。
プロービングテクニックとコネクタ選定
高周波信号を正しく観測するためには、プローブの接続方法やコネクタ形状にも注意が必要である。高帯域モデルでは、プロービング時の反射やミスマッチが波形に大きな影響を与えるため、専用の同軸ケーブルや差動ピンセット型のアクセサリが用意されていることが多い。測定対象の物理的スペースやピン間距離に応じて、最適な先端部品を選択することが重要である。
まとめ
差動プローブは、ノイズ除去に優れ、安全性と測定精度を両立した強力なツールである。パワーエレクトロニクス分野や車載ネットワークの評価、高速通信信号の測定など、幅広い応用があり、用途に応じた最適なモデルを選定することが肝要である。オシロスコープとの組み合わせにより、より高度な波形解析やトラブルシュートが可能となり、正確な回路設計と製品信頼性の向上に寄与する測定機器のひとつである。
Previous:
高圧プローブとは
Next:
アクティブ・プローブとは
もっと用語集
-
オシロスコープ プローブ入門(4)用途別のおすすめプローブと測定技法
-
電子回路の基本知識(6)‐論理回路と基本ゲート
-
電子回路の基本知識(7)‐フリップフロップと記憶の仕組み
-
電子回路の基本知識(8)‐クロックとタイミング制御
-
電子回路の基本知識(9)‐カウンタ回路と応用例
-
電子回路の基本知識(10)‐パルス制御とPWMの基礎
-
オシロスコープ プローブ入門(1)プローブの基本構造と役割
-
オシロスコープ プローブ応用(3)微小差動信号の測定とノイズ抑制
-
オシロスコープ プローブ入門(3)プローブ測定時の注意点と実践テクニック
-
電子回路の基本知識(3)‐直流と交流の違いと使い方
-
オシロスコープ プローブ入門(5)測定トラブル事例と対処法
-
オシロスコープ プローブ入門(6)プローブ選定のポイントとスペックの見方
-
オシロスコープ プローブ入門(7)最新プローブ技術と今後の進化
-
オシロスコープ プローブ入門(総まとめ)プローブ選定と測定の実践知識
-
オシロスコープ プローブ応用(1)高電圧測定の基本と安全対策
-
オシロスコープ プローブ応用(2)車載信号の測定とノイズ対策
-
オシロスコープ プローブ入門(2)プローブの種類と使い分け
-
高圧プローブとは
-
プローブが必要な理由
-
パッシブプローブとアクティブプローブの違い
-
差動プローブの使いどころ
-
高電圧測定におけるプローブの選定ポイント
-
微小差動信号の正確な測定法
-
パッシブ・プローブとは
-
電子回路の基本知識(5)‐トランジスタの基本とスイッチング動作
-
差動プローブとは
-
電子回路の基本知識(4)‐コンデンサとコイルの基礎
-
電流プローブとは
-
オシロスコープにおけるよくあるトラブルとその対処法
-
電磁波の周波数による分類
-
クランプメーターとは
-
電子回路の基本知識(1)‐電圧・電流・抵抗の基礎
-
電子回路の基本知識(2)‐直列回路と並列回路の違いと使い分け
-
電流プローブとは
-
アクティブ・プローブとは
-
調整されていないプローブは使えない理由 ― プローブの補償と低周波・高周波補正
-
オシロスコープにおけるカーソルの使い方
-
オシロスコープのトリガが難しいと感じる理由と克服のコツ
-
オシロスコープと周波数カウンタの比較
-
オシロスコープ プローブ応用(4)シャント抵抗を使った電流測定の実践
-
FFT解析で使える便利なトリガ設定
-
オシロスコープにおける波形の一部を詳しく見る方法(ズーム機能の活用)
-
オシロスコープでFFT機能を使った周波数スペクトルの確認
-
オシロスコープでカーソルを使った解析方法
-
オシロスコープで波形データを保存する方法
-
オシロスコープで波形の一部を詳しく見る方法
-
オシロスコープのズーム機能の使い方
-
オシロスコープのディスプレイの見方
-
オシロスコープで信号の周波数を測定する方法
-
プローブの使い方とプロービングの基本
-
オシロスコープで信号の周波数を測定する方法
-
オシロスコープ プローブ応用(5)光アイソレーションプローブによる高電圧測定
-
オシロスコープ プローブ応用(6)車載信号の観測とトリガ活用術
-
オシロスコープ プローブ応用(7)微小差動信号と周波数ノイズの観測
-
オシロスコープ プローブ入門(最終回)プローブ選定ガイドと活用のまとめ
-
デジタル・オシロスコープの基本操作
-
オシロスコープにおける入力信号の電圧振幅の見方
-
オシロスコープにおける入力信号の電圧振幅の見方
-
FFT機能による周波数スペクトルの確認
-
オシロスコープにおけるトリガのテクニック
-
光アイソレーションプローブとは
-
クランプメーターと電流プローブの違い
-
高周波電流測定のコツ
-
プローブの入力インピーダンスと測定精度の関係
-
オシロスコープで波形データを保存する方法