オシロスコープでFFT機能を使った周波数スペクトルの確認
FFTとは
FFTは「高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform)」の略で、時系列の波形データを周波数成分に変換する数学的手法である。通常オシロスコープは時間軸上の波形を表示するが、FFTを使えば、同じ信号を周波数軸で表示することができ、どの周波数成分が強く含まれているかを視覚的に確認できる。
FFT機能の活用シーン
FFT機能は、ノイズ解析、スイッチング電源の高調波評価、無線信号の帯域確認、振動センサ信号の周波数成分の可視化など、さまざまな測定シーンで役立つ。たとえば、ある回路から出力される信号に特定の周波数のノイズが含まれていないかを確認したい場合、FFTを使うことでそのノイズの周波数を特定できる。
FFTの基本的な使い方
オシロスコープでFFT機能を有効にするには、まず観測対象の信号を通常のタイムドメイン表示で観測し、トリガやスケーリングを適切に設定する。その上でFFT表示を有効にすると、画面に周波数スペクトルが現れる。横軸は周波数、縦軸は振幅(一般にdBVやVrmsなど)となり、特定の周波数成分の強さをグラフで把握できる。
ウィンドウ関数の選択
FFT解析では、ウィンドウ関数の選択が重要になる。ウィンドウ関数は、解析対象とする波形データの端点をどのように扱うかを決めるもので、代表的なものに矩形(Rectangular)、ハニング(Hanning)、ブラックマン(Blackman)などがある。矩形は解析の精度は高いがサイドローブが強く出やすく、ハニングやブラックマンは周波数分解能がやや劣る代わりにスプリアスを抑制できる。目的に応じて適切な関数を選ぶことが重要である。
FFT解析における帯域と分解能の関係
FFTの分解能は、取得波形の長さとサンプルレートに依存する。長い波形を解析すれば細かい周波数の違いを検出できるが、処理時間や画面描画に時間がかかる場合がある。逆に波形が短いと解析スピードは速いが、周波数解像度が粗くなる。目的に応じて、メモリ長とサンプリングレートを調整することが求められる。
実際のスペクトル観測の例
たとえば、PWM信号や矩形波などを観測し、FFTを使って解析すると、基本波とその高調波成分が確認できる。信号が純粋な正弦波であれば、スペクトル上には1つのピークが現れる。一方で、歪んだ波形やデジタルパルス信号では、整数倍の周波数にピークが並ぶ。この情報は、設計したフィルタが適切に高調波を除去できているかの検証などにも役立つ。
時間波形とスペクトル表示の切替と併用
機種によっては、タイムドメイン波形とFFTスペクトルを同時に表示できる機能を備えている。この場合、時間領域での波形変化と、周波数成分との関係を直感的に理解できるようになる。たとえば、スイッチングノイズの発生タイミングと、そのノイズ成分の周波数帯域を同時に確認することができ、ノイズ源の特定や改善方針の検討がしやすくなる。
注意点と限界
FFT機能は便利なツールだが、スペクトラムアナライザと比べて分解能やダイナミックレンジが限定される場合がある。また、トリガの安定性が悪いと、取得した波形に周期性がなくなり、FFT結果が不正確になることがある。特に微小信号や広帯域信号の解析には、入力インピーダンスやプローブの特性も影響するため、信号品質を正確に捉えるための配慮が必要となる。
まとめ
オシロスコープのFFT機能は、時間領域では見えない信号の周波数的な特徴を簡易的に可視化する有効な手段である。設計や開発、トラブル解析の現場では、時間波形とFFTを併用することで、信号の全体像を把握しやすくなる。FFTを正しく理解し、表示設定やウィンドウ関数、解析対象の選定を適切に行うことで、より高精度な測定結果を得ることができる。
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