FFT解析で使える便利なトリガ設定
FFTとトリガの関係
オシロスコープのFFT機能は、時間領域で取得した波形を周波数成分に変換して表示するものである。高精度なFFT解析を行うには、まず時間軸での信号取得が安定している必要があり、その鍵を握るのが「トリガ設定」である。トリガが正しくかからないと、信号が波形メモリ内でランダムに位置し、周期性が失われ、FFT結果が不正確またはノイズ的な表示になってしまう。
エッジトリガで基本波を安定表示
最も基本的なトリガ設定はエッジトリガである。これは信号の立ち上がりや立ち下がりを検出して波形取得を開始する方法で、周期性のある信号や繰り返しパターンのある波形に適している。例えば、矩形波や正弦波の基本波に合わせてトリガすれば、時間軸上での表示が安定し、FFT表示も明瞭になる。
パルストリガやパルス幅トリガで異常波形を解析
ノイズ成分や異常なスパイクを含む信号では、エッジトリガだけでは目的の波形が得られないことがある。このようなケースではパルストリガやパルス幅トリガが有効である。例えば、パルス幅が異常に短い信号だけに反応するよう設定すれば、そのタイミングでFFTを行い、ノイズ成分の周波数帯域を特定することができる。
スロープトリガで立ち上がり速度を観測
アナログ回路や電源の立ち上がり、通信波形などにおいて、信号のスロープ(立ち上がり速度)に注目する場合は、スロープトリガが便利である。スロープ条件に合致した波形だけを取得することで、特定の条件下で生じるノイズや高調波の変化をFFTで確認できる。
オートセットではなく手動トリガを推奨
多くのオシロスコープにはオートセット機能があり、信号を自動でトリガし見やすく表示するが、FFT目的の場合には手動トリガが推奨される。これは、FFTではトリガ位置や波形の位置が結果に大きな影響を与えるためである。トリガレベルやトリガエッジを自分で細かく調整し、目的の信号成分がメモリ内で安定するよう調整することが重要である。
ヒステリシス設定でトリガの誤動作を防止
微小信号やノイズが混入した信号では、トリガの誤動作が生じることがある。こうした場合には、ヒステリシスの設定を用いると効果的である。ヒステリシスを広く設定すれば、一定以上の変化がないとトリガが発生しないようになるため、ノイズによる誤トリガを防ぐことができる。結果として、FFTに必要な安定した時間軸の波形が得られる。
トリガディレイとFFTの関係
トリガポイントから一定時間後の信号を観測したい場合は、トリガディレイ機能を活用するとよい。たとえば、電源投入直後のノイズや、ある制御信号の後に発生する高調波をFFTで確認したいとき、トリガディレイによって観測タイミングをずらすことで目的の信号区間をFFT表示できる。
シングルトリガで一発測定
周期性のない過渡現象や一度しか現れないイベントに対しては、シングルトリガが効果的である。特定条件を満たした瞬間に波形を取り込み、そのままFFT表示に切り替えることで、一回限りの現象を周波数領域で確認することが可能となる。トランジェントな異常波形の解析には特に有効である。
FFTモード中のトリガ表示確認
オシロスコープによってはFFT表示中にトリガポイントやトリガ種別を確認できるものがある。これを活用すれば、周波数成分がどのようなタイミングで出現しているのかを、時間と周波数の両方から把握できる。タイムドメインとFFT表示を同時に表示可能なモデルであれば、さらに詳細な解析が可能となる。
まとめ
FFT解析を効果的に行うためには、トリガ設定の工夫が欠かせない。基本波に同期させたエッジトリガから、異常波形に対応するパルス幅トリガ、ノイズ対策としてのヒステリシス、イベント追跡用のディレイやシングルトリガまで、目的に応じたトリガ機能を活用することで、より正確で信頼性の高いFFTスペクトルが得られる。FFTとトリガは密接に関係しており、その組み合わせによって測定の精度が大きく変わることを理解しておくことが重要である。
Previous:
オシロスコープと周波数カウンタの比較
もっと用語集
-
オシロスコープ プローブ入門(4)用途別のおすすめプローブと測定技法
-
電子回路の基本知識(6)‐論理回路と基本ゲート
-
電子回路の基本知識(7)‐フリップフロップと記憶の仕組み
-
電子回路の基本知識(8)‐クロックとタイミング制御
-
電子回路の基本知識(9)‐カウンタ回路と応用例
-
電子回路の基本知識(10)‐パルス制御とPWMの基礎
-
オシロスコープ プローブ入門(1)プローブの基本構造と役割
-
オシロスコープ プローブ応用(3)微小差動信号の測定とノイズ抑制
-
オシロスコープ プローブ入門(3)プローブ測定時の注意点と実践テクニック
-
電子回路の基本知識(3)‐直流と交流の違いと使い方
-
オシロスコープ プローブ入門(5)測定トラブル事例と対処法
-
オシロスコープ プローブ入門(6)プローブ選定のポイントとスペックの見方
-
オシロスコープ プローブ入門(7)最新プローブ技術と今後の進化
-
オシロスコープ プローブ入門(総まとめ)プローブ選定と測定の実践知識
-
オシロスコープ プローブ応用(1)高電圧測定の基本と安全対策
-
オシロスコープ プローブ応用(2)車載信号の測定とノイズ対策
-
オシロスコープ プローブ入門(2)プローブの種類と使い分け
-
高圧プローブとは
-
プローブが必要な理由
-
パッシブプローブとアクティブプローブの違い
-
差動プローブの使いどころ
-
高電圧測定におけるプローブの選定ポイント
-
微小差動信号の正確な測定法
-
パッシブ・プローブとは
-
電子回路の基本知識(5)‐トランジスタの基本とスイッチング動作
-
差動プローブとは
-
電子回路の基本知識(4)‐コンデンサとコイルの基礎
-
電流プローブとは
-
オシロスコープにおけるよくあるトラブルとその対処法
-
電磁波の周波数による分類
-
クランプメーターとは
-
電子回路の基本知識(1)‐電圧・電流・抵抗の基礎
-
電子回路の基本知識(2)‐直列回路と並列回路の違いと使い分け
-
電流プローブとは
-
アクティブ・プローブとは
-
調整されていないプローブは使えない理由 ― プローブの補償と低周波・高周波補正
-
オシロスコープにおけるカーソルの使い方
-
オシロスコープのトリガが難しいと感じる理由と克服のコツ
-
オシロスコープと周波数カウンタの比較
-
オシロスコープ プローブ応用(4)シャント抵抗を使った電流測定の実践
-
FFT解析で使える便利なトリガ設定
-
オシロスコープにおける波形の一部を詳しく見る方法(ズーム機能の活用)
-
オシロスコープでFFT機能を使った周波数スペクトルの確認
-
オシロスコープでカーソルを使った解析方法
-
オシロスコープで波形データを保存する方法
-
オシロスコープで波形の一部を詳しく見る方法
-
オシロスコープのズーム機能の使い方
-
オシロスコープのディスプレイの見方
-
オシロスコープで信号の周波数を測定する方法
-
プローブの使い方とプロービングの基本
-
オシロスコープで信号の周波数を測定する方法
-
オシロスコープ プローブ応用(5)光アイソレーションプローブによる高電圧測定
-
オシロスコープ プローブ応用(6)車載信号の観測とトリガ活用術
-
オシロスコープ プローブ応用(7)微小差動信号と周波数ノイズの観測
-
オシロスコープ プローブ入門(最終回)プローブ選定ガイドと活用のまとめ
-
デジタル・オシロスコープの基本操作
-
オシロスコープにおける入力信号の電圧振幅の見方
-
オシロスコープにおける入力信号の電圧振幅の見方
-
FFT機能による周波数スペクトルの確認
-
オシロスコープにおけるトリガのテクニック
-
光アイソレーションプローブとは
-
クランプメーターと電流プローブの違い
-
高周波電流測定のコツ
-
プローブの入力インピーダンスと測定精度の関係
-
オシロスコープで波形データを保存する方法