パッシブプローブとアクティブプローブの違い
オシロスコープ測定におけるプローブの役割
オシロスコープで信号を観測するためには、測定対象とオシロスコープ本体をつなぐプローブが不可欠である。プローブは信号の電気的特性をできる限り忠実に伝送し、波形観測の精度に直結する重要な存在である。中でも最も広く使われるのがパッシブプローブとアクティブプローブであり、それぞれ特徴と用途が大きく異なる。本稿では両者の構造的な違いや使い分けのポイントについて解説する。
パッシブプローブの特徴
パッシブプローブは、内部にアクティブ素子(トランジスタやアンプ)を持たないシンプルな構造のプローブである。一般的には抵抗とコンデンサを使った減衰回路で構成されており、電源を必要としない。そのため、構造が堅牢でコストが安く、日常的な測定用途に広く使用されている。
パッシブプローブは通常、10対1の減衰比を持ち、オシロスコープとのインピーダンスマッチング(通常は1MΩ)を前提として設計されている。帯域幅は数十MHzから数百MHz程度で、一般的なデジタル回路やアナログ信号の観測には十分である。また、扱いやすさや耐久性にも優れているため、教育現場やメンテナンス用途でもよく用いられている。
アクティブプローブの特徴
アクティブプローブは、プローブ内部に高入力インピーダンスのバッファアンプなどのアクティブ素子を搭載しており、信号源への負荷を極限まで小さく抑えられるのが最大の特長である。そのため、微小な信号や高速な信号、あるいは高インピーダンスのノードを観測する際に特に有効である。
アクティブプローブは電源供給が必要で、オシロスコープ本体からの電源供給や外部アダプタを使う設計になっている。高帯域モデルでは1GHzを超えるものもあり、高速デジタル信号やRF信号の観測、あるいはノイズの影響を最小限に抑えた高精度測定に活用される。
入力インピーダンスの違いと信号源への影響
パッシブプローブの入力インピーダンスは周波数とともに変化するため、高周波信号を観測すると信号源に対する負荷が大きくなり、波形が歪むことがある。一方、アクティブプローブは高周波領域でも一定の高インピーダンスを保ち、信号源への影響を抑えることができる。
このため、高速信号や微小信号の測定では、アクティブプローブの方が信号の忠実性を維持しやすい。特に、高速メモリバスやLVDS、USB、HDMIなどの高速インタフェースでは、アクティブプローブが不可欠となる。
帯域と立ち上がり時間の違い
アクティブプローブは内部アンプ回路によって高い帯域と高速な応答性能を実現できる。これに対してパッシブプローブは、回路構成の制限により帯域に限界があり、立ち上がり時間の短いパルス波形やスパイクなどを忠実に捉えるには限界がある。
したがって、信号のエッジ(立ち上がり・立ち下がり)を高精度で観測したい場合には、アクティブプローブの方が適している。
使用上の注意点と制約
パッシブプローブは比較的取り扱いが容易で、耐電圧も高いため、電源回路など高電圧測定にも適している。一方、アクティブプローブは最大入力電圧に制限があり、過電圧によって回路を破損させる恐れがあるため、取り扱いには注意が必要である。
また、アクティブプローブは価格が高く、静電気や落下によって内部回路が破損することもあるため、保管や運搬にも気を遣う必要がある。
まとめと使い分けの指針
パッシブプローブは、コストパフォーマンスに優れ、一般的な測定用途に適している。高電圧信号や信号忠実度をそれほど求めない測定には最適である。一方、アクティブプローブは、測定対象が高速かつ微小で、波形の忠実性を求められるようなケースで本領を発揮する。
つまり、用途や対象信号に応じて両者を適切に使い分けることが、正確な測定を行うための鍵となる。プローブの選定は単なる付属品選びではなく、測定結果そのものの品質を左右する重要な判断である。
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