第2編:オシロスコープ応用活用 ― FFT解析と波形解析の実践
オシロスコープは単に時間波形を観測するだけでなく、信号の周波数成分を解析することもできます。
その代表的な機能が「FFT(高速フーリエ変換)」です。
FFTを使うと、時間波形を周波数軸に変換し、信号に含まれる周波数の強さ(スペクトル)を可視化できます。
これは、オシロスコープが“簡易スペクトラムアナライザ”として機能する代表的な応用です。
たとえば、オーディオ信号やスイッチング電源のノイズ波形をFFT表示すると、どの周波数帯にエネルギーが集中しているかが分かります。
特定のピークが現れる場合、それがノイズ源や共振点の手がかりになります。
このように、FFT解析はトラブルシューティングや設計改善に役立つ強力な手法です。
FFTを行う際の注意点は、「窓関数」の選択です。
信号の特性に応じてハニング窓・フラットトップ窓などを使い分けることで、周波数分解能や振幅精度を最適化できます。
また、解析結果を正確に得るには、十分なサンプリング数(メモリ長)と安定したトリガ設定が必要です。
さらに、波形解析では自動測定機能を活用することで、手作業による誤差を減らせます。
立ち上がり時間、デューティ比、周期、最大・最小値などのパラメータを自動で算出し、複数波形の比較も容易です。
電源の過渡応答やPWM信号の解析では、こうした機能が非常に有効です。
実務的なコツとして、波形を観測する際は「時間軸と周波数軸の両方の視点」を持つことです。
たとえば、突発的なスパイクノイズは時間軸上で瞬間的な異常として見えますが、FFT上では広帯域に影響するノイズとして表れます。
両者を合わせて解析することで、原因をより確実に特定できます。
FFT解析は高周波測定の入口としても重要です。
教育現場でこれを学ぶことで、信号処理や通信工学の基礎理解にもつながります。
ただし、FFT機能を使用する際は、入力信号のレベルを超えないよう注意し、必要に応じて減衰器(アッテネータ)を使用します。
オシロスコープを「時間」と「周波数」の両面で使いこなすことは、
より高度な測定スキルを身につけるためのステップアップになります。
波形を“見る”だけでなく、“読む・解析する”力を磨きましょう。
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🌐 オシロスコープシリーズ(全3編)目次第1編:オシロスコープ基礎入門 ― 波形観測の原理と使い方の基本
・オシロスコープとは何か、電圧と時間の関係を視覚的に理解するための基本原理
・垂直軸・水平軸のスケール設定と波形観測の基本操作
・トリガ設定による波形の安定表示方法
・サンプリングレートとメモリ長の関係
・安全に測定を行うためのプローブ接続と注意点
第2編:オシロスコープ応用活用 ― FFT解析と波形解析の実践
・FFT(高速フーリエ変換)による周波数解析の基本
・時間波形と周波数波形を組み合わせた観測のコツ
・窓関数の種類と選び方、解析精度への影響
・自動測定機能を活用した波形比較・解析手法
・ノイズ源特定や電源特性評価への応用例
第3編:オシロスコープ教育応用 ― 実験室で学ぶ安全な波形観測
・RC回路・PWM波形・整流回路など、教育で扱いやすい実験テーマ
・学生実験における安全確認とアース接続の基本
・操作性・視認性に優れた教育用モデルのポイント
・波形が乱れたときに考えるべき要因とトラブル学習の意義
・安全教育と観測技術の両立がもたらす学習効果
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