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第8編:設備トラブルを波形で診る ― オシロスコープ活用の一次診断法
- 2025/10/6 -

 製造現場や研究施設では、装置が突然動かなくなる、センサーが誤作動する、電源が落ちるといったトラブルが日常的に発生します。こうした設備トラブルの原因は多岐にわたりますが、電気的な異常が関係しているケースも少なくありません。そこで有効なのが、オシロスコープを使った波形による一次診断です。目に見えない電気信号を可視化することで、問題の発生箇所を短時間で特定することができます。

 設備トラブルの多くは、電源ラインの異常や信号レベルの乱れが引き金になります。たとえば、モータが始動する際の電圧降下、突入電流によるリセット、制御信号の立ち下がり遅れなどが挙げられます。オシロスコープで電圧波形を観測すれば、これらの現象をリアルタイムに確認できます。特に電源が原因か制御が原因かを切り分けるには、電圧と信号の両方を同時に測定することが有効です。電源が安定していれば信号異常、逆に電源が大きく変動していれば電源系統に問題があると判断できます。

 トラブル対応では、まず「症状が出る瞬間」を捉えることが重要です。再現性が低い現象の場合、オシロスコープのトリガ機能を使って異常波形を自動記録する方法が有効です。たとえば電圧が一定値以下に落ちたとき、または信号が想定外のレベルに達したときにトリガを設定しておくと、トラブル発生時の波形を逃さず記録できます。これにより、問題が起きた瞬間の前後関係を把握し、原因特定に役立てることができます。

 また、制御装置やセンサーの異常では、信号線にノイズが重畳している場合があります。スイッチング機器やインバータ、モータドライバなどの近くでは、突発的なスパイク電圧が発生することがあります。こうした高周波ノイズは通常のテスターでは検出できませんが、オシロスコープなら一瞬の電圧変動も正確に捉えることができます。波形上に鋭いピークが見えた場合は、シールドや配線の取り回し、アースの取り方を見直すことが必要です。

 安全面では、設備が稼働中の状態での測定は特に注意が必要です。電源ラインに直接プローブを当てると感電やショートの危険があります。高電圧や大電流の箇所では、必ず絶縁型またはクランプ式のプローブを使用し、金属部への接触を避けてください。また、測定時には片手で操作し、もう一方の手はポケットなどに入れておくことで感電経路を防ぐことができます。設備周囲の安全を確保し、他の作業者と十分に連携して行動することが重要です。

 現場では、トラブルの原因が電気的か機械的かを迅速に判断することが求められます。たとえば、モータが動かない場合に、電源ラインには電圧が来ているのか、制御信号が出ているのかを同時に確認すれば、制御回路と駆動回路のどちらに問題があるかを瞬時に判断できます。波形を比較することで、動作している装置と異常を起こした装置の違いを明確に示すこともできます。データを残しておくことで、後の再発防止にもつながります。

 さらに、波形観測を定期点検に組み込むことで、予防保全にも活用できます。設備の電源や信号の波形を定期的に記録しておくと、異常が発生した際に「以前との違い」を比較できます。立ち上がり時間が遅くなっている、リップルが増えているなど、劣化の兆候を早期に発見できれば、故障前にメンテナンスを行うことが可能です。オシロスコープは、トラブル対応だけでなく「未然防止」のための診断ツールでもあります。

 トラブルシューティングでは、焦って配線を変えたり部品を交換したりする前に、まず波形を確認することが大切です。波形を正しく観察することで、誤判断を防ぎ、最短で原因にたどり着けます。オシロスコープは、現場での“電気の聴診器”のような存在です。日常点検に取り入れることで、設備の安定稼働と作業者の安全を両立させることができます。




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